15. 時計の善用
第二十六回 時計の善用
さて、わが国の人々の、近ごろ時計を備える者の多くなったのは誠に喜ぶべきことでございますが、 実際は、何の為めに時計を備えるか、其の真意の知れぬには閉口です。
金くさりに金時計を下げて居る人でも、その友人を尋ねて別段の用もないのに、雑談に小一日を費やす者もあります。 又は集会ごとのある時に、約束の時刻より、一時間も二時間も遅れて集まるが常で、 時間の約束を守らぬを平気で居る者の甚だ多いのは、諸君のすでにご存知のことでせう。
これらは、第二者に対してのお話ですが、自己一己でも甚だ時間を重んじず、勿体ない月日を、 のらくらの間に暮す者多く、その弊害は特に田舎の人に多いです。 汽車の出発時刻より、二時間も早く停車場にかけつき、 欠伸 を仕続けて居る者などもありますが、なんと、のんきなことではありませんか。 時間だと思ふから、二時間をただ費やしてるですが、これを一時間幾らといふ金銭だと思ふたならば、まさかかかうでもないでせう。
これらの人々は、何の為めに時計を下げ、燦爛
出典 : 少年工芸文庫版第十五編「時計の巻」
東京、博文館蔵版
明治36年10月28日発行
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