8. 扇面形下振時計 【小林源次郎 特許】
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メーカー | 製造年代 | 大きさ | 仕様・備考 |
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小林時計店(源次郎)、東京 | 明治42年頃 |
高さ 54cm 幅 63cm |
変形デジタル(レトログラード) |
古くからドイツ製ジャンプ時計などと本に紹介されている大珍品です。 この度、所蔵者のご厚意により紹介させてもらうことになりました。
下向き扇面形のケースと文字板のユニークな変形デジタル時計で、
特許原本に「頗る斬新かつ趣味あるものとして特に装飾用に適せしむるに在り」と狙いもその辺に有ったようです。
下向きであるために分かりにくいですが、特許に有るように扇の形をイメージしたデザインで、
扇面形下振時計という名称が付いています。
文字板の窓に時間の文字が表示され分針が扇面状の表示盤の0〜60分まで動き、 60分でまたもとの0にジャンプして戻るという面白い機構です。 この機構は、18世紀末頃に考案された機械式デジタル技術の一つで、ウオッチではレトログラードと呼ばれることが多いようです。
この時計は、古くはドイツ製「ジャンプ時計」などと言われてましたが、ボンボン時計を改造した国産です。 (特許図面参照)
特許出願者は小林源次郎で、特許出願住所は東京市京橋区八官町九番地本籍となっています。 この住所は八官町の大時計で有名な二代目小林伝次郎の小林時計店の住所です。 初代小林伝次郎は江戸の時計師としてオルゴール付きの枕時計などを作った名匠として有名ですが、 二代目伝次郎は初代の弟子から養嗣子となり、 明治初期の東京の時計店では日本橋通4丁目支店と京橋南伝馬町支店に同じく大時計塔を備えた大店でした。 特許出願者の小林源次郎氏については、後述します。
時計各部の拡大
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写真提供: 大谷トレーニングセンター
特許図面
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扇面形下振時計
東京市京橋区八官町九番地本籍 小林源次郎
本発明は扇形をせなる版の下縁に弧状の分度を附し版の上端部に支軸を有する分針に依りて分位を指示せしめ又周園に 時間名を分記せる廻転版に依り扇形版の中央に作れる透孔を通して時位を表示せしむべくし特殊の機構を以て一時間の 終に分針が分度の極端に達する毎に之を急激に転還して再び分度の始端に戻らしめ且つ此の動作に連繋して同時に円板を 廻動し以て透孔より次の時間を表示せしむべくなしたる扇面形下振時計に係り其の目的とする所は従来円形のみに限られたる 時計板の形状を扇形にし且つ分針の作用を躍動的にし透孔より次々の時間の変化を表示せしむるに依り頗る斬新且つ趣味あるもの として特に装飾用に適せしむるに在り
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小林源次郎
小林時計店は、銀座の竹内治右衛門、人形町の小島房次郎、小川町の中江幾次郎、鉄砲町の小沢金平、牛込肴町の菊岡福次郎、 浅草の永田新次郎などそうそうたる門弟を輩出した日本の時計師の第一人者である。
小林時計店の二代目小林伝次郎と竹内治右衛門は昵懇(じっこん)で 治右衛門の次男源次郎が小林伝次郎の娘へ養子に行き分家、 通塩町にて時計卸商の小林時計店を創業したのが扇面形下振時計の特許出願者の小林源次郎である。
上の広告で「米国ウオルサム時計特約」となっているのは、 29年に二代目伝次郎が米国の視察に出かけウオルサムから特に歓待され総代理店の権利を得ている。 そのような経緯からであろう。
二代目小林伝次郎は男子に恵まれなかったため、明治23年、弟子の甥の井尾忠三郎を養嗣子とし、 35年には家督を忠三郎に譲り三代目伝次郎を襲名させ隠居。 小林時計店はその後、四代目の時代、戦時中の昭和18年に廃業した。
謎の扇面形時計
本記事に掲載した扇面形下振時計は、過去に「がらくた美術」石黒敬七コレクション保存会(昭和50年大陸書房刊)という本に 「ドイツの時計 ジャンプ時計」として掲載されたものと同一機種と思います。 (同一であれば本に書かれたドイツ製という記述は誤りということになります。) 特許庁の原本が示すように、国産で扇は下向きがオリジナルであろうと思います。
その他の扇面形時計として、某テレビの鑑定団に出て高額の評価の付いたものがあります。 しかしその時計は本記事に掲載したものと外観は似ていますが、扇が上向きでケースの彫刻も少し違っており、 いったい何モノかはっきりしていません。 以下のどちらが正解かは断定できていませんが、次ページに上向き扇形時計のリプロ(複製品)を掲載していますので比較してみてください。
- 小林源次郎製作の続編
- オリジナルを模したコピー製品
(どうせなら上向きにした方が格好が良いと判断して作った?時代も不明)
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