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時計技術の相互研究

131. 懐中時計の歯車装置の缺陥

[問]懐中時計の歯車装置の欠陥の起る場合と、これが修繕法を問ふ。

[答] 時計の歯車仕掛に現はれる欠陥は左の五つの場合に過ぎない。
(一)過度に深き噛合せ
(二)過度に浅き噛合せ
(三)車の歯とカナの歯とにおけるその働きの欠乏或いは其の不充分
(四)直径の不正確なカナ、歯輪に比し、過大又は過少なるカナ
(五)歯輪の歯またはカナの歯の形の不正なる事、即ちこの欠陥はカナのホゾ先(軸先)が孔中に自由に過ぎるか否かを 経験家でも調べる事を怠るものだがこれが偶々(たまたま)欠陥を招来するものである。

132. 時計側の内側の磨き方

[問]懐中時計側の内側を磨くには如何にせばよろしきや。

[答] 日露後の頃までは金側銀側は何れも綺麗に磨いたもので時計店に見習に入れば側磨きが関門として手は勿論の事、 顔一杯磨き粉(赤粉)で赤くなってゐたものである。 フチや隅には柳へ箸に赤粉を付けて又七々子とか胴廻りは刷毛で磨いた後指先で磨き、見返し(蓋の内面)は少しのキズも ないように鏡の如く磨きあげたものだが、現今はクロームだステンレスだと応用材料の変化もあるが全然忘れられてゐるが 今後時計はその性質上、依然貴重品の域を脱せぬから側の磨きの如きと○も一応は心得置くも損するものではない。 然し今は総て旋盤によって機械的になされてゐる。

133. 天真のホゾ穴修正

[問]左の項につき御教示下さい。
一、天府の上下に穴石なき普通腕時計に於ける具合、天真のホゾ穴が大きくなってゐる時はタガネにて穴を 小さくするものでせうか・・・・・この場合天真を取替へた方が結果がいい様に思ひますが如何でせうか。

[答] 天真を太くすると天府の振れが悪くなるから太くせぬ方が良い。 地板の磨滅によって生じたる故障の様ですから、その磨滅した部分を穴埋めするのが当然です。 この場合は極く小型の油溜りに丁度合ふボウズタガネを用ふればよいのです。

134. 分解掃除の際の酒精(アルコール)漬の理由

[問]懐中時計部分品の掃除をして水洗ひ後、酒精に漬け(吊り下げる)これを鋸屑の上に移す前に何分位で引上げるとよいですか、 又此吊り下げてゐる内に、歯車枢軸部や廻転部の受石のシラックが溶解し去るやうな事はないですか、御伺ひ申します。

[答] 酒精の中に部分品を吊り下げる目的は、部分品に附着してゐる水分をなるべく早く取り、引き上げ後の乾燥を早くする為である。 これは水が酒精より重いといふ理屈を示すものである。試みに光線が充分に透る机の上に酒精の入ってゐるコップを置き部分品を 吊り下げて置くと水気がアルコールの下の方に沈むのを明らかに認められる。 又これを引上げるのは、この水気が下に沈んだら直ぐ引上げるとよいのです。この水気の分離する時間は約十秒時と 称せられてゐる程迅速のものである。 従って歯車部の受石等のシラックの溶解する惧れはないが、大部分の時計師は掃除の事前に重い部分とこの廻転部のものを 分離してから、例へアルコールに吊り下げる場合にも総て完全で必要のないやうにしてやるものです。

135. ヒゲ全舞取換上の注意

[問]懐中時計のヒゲゼンマイの取換へについての必要且つ注意すべき事項を問ふ。

[答] ヒゲ(螺状)ゼンマイに対する注意だけでもなかなか大変のページを要するが最も簡単に誰も常識的に知ってゐなければならぬ事は、 ヒゲは良品を選ぶ事とこの方法としては第一に錆びてゐない事と弾力性に富んでゐる事が条件である。 この弾力性の良品を検査する簡単の方法は、ヒゲゼンマイを平らの硝子の板の上に乗せ中心を押へヒゲの一方の端をピンセットで ツマミあげ、これがゼンマイの直径の二倍以上の高さになるやうに持ち上げて円錐状を呈するまで吊るし上げ然る後に元の位置に 置いた場合に前と同様の状態を呈するものでなければならない。 又運転は互いに距○に良く且つ規則正しく螺旋状を為すことを必要とするものである。

※ 第三章は、これにておしまい。

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