21. 大物鉄ヒゲゼンマイの錆取
[問]八日巻き置き時計などの鉄ヒゲゼンマイが新品でよく錆を生じている事があるが、 この錆を如何にして奇麗にするか御教示を乞ふ
[答] 鉄ヒゲゼンマイの本質から新品でもよく錆を生じているのがあるが小物ヒゲでは指先で取る事などとても不可能である。 大物のヒゲなれば錆びた部分に油を塗ってヒゲ箸で丹念に落とせば目立たないようになる。 尚、時計の剣などを着色する時などに用ひる青色の錆止薬が発売されている筈であるから この薬を塗ってカモフラーヂするのも一つの方法である。ゼンマイの大体保存に特に注意すべきである。
22. 塩水浸入の時計修理の方法
[問]海水中に懐中時計を落してから一、二時間の後に引き上げ十五、六時間経ってから私の店に持ってきた ので正規の手続きを踏んで全部分解して揮発油でよく洗ひブラシで磨きスッカリ掃除してやったのに一ヶ月 ばかりして時計が止まるとの事で再び持参したのを見るとゼンマイやその他の部分に錆びを生じ、且つ歯車 の真棒の部分などが錆びのために運転が悪くなり遂に止まった事を発見したのです。 海水中に入った懐中時計の掃除法は如何にするのですか
[答] 海水中に二時間も浸してあったものが引き上げ後十五、六時間も過ぎたものなら余程浸水が少なかったので一度は直し得たのでせうが、 その際塩分の脱却手当てが不充分であったものと思はれます。 海水中に浸した器械は成るべく早く清水で何度も洗ひ(微温湯ならなお更よろしい)次にアルコールに浸して水分を充分に取去り アルコールを除き鉄の部分は注意して少しの錆をも残さぬように、それから一昼夜位を油に浸し続き、取り出してベンジンで洗ひ、 前日磨き出したると変わりなき哉を検べてから普通の磨き掃除、組立、油引きをなすべきであります。 無論、ヒゲは新規に取り替へられた事と思ひます。
23. 機械の運転停止は組立の欠陥
[問]懐中時計の障害---懐中時計を丁寧に掃除した後に間もなく何かの調子で夜中に運行が数時間停止したり する障害を起こすことがある。これは外観上は何等の故障も見受けられない。 また、宝石、受石もすべて完全であって、尚遊び箇所を試験しても何等の故障も認められない。 特にスイス製の懐中時計に於いてこの事が頻発するのであって、米国製に余りこの故障がないのは何故か、 私共は総てのマークに就いてこの欠点を屡々発見されるのだ
[答] 其の故障は多分機械の組立の失敗からではないかと思はれます。 懐中時計の停止が起る原因は殆ど幾百種もあるから一々実際に就いて見なければ何とも申し上げかねる、 吾々は時計の学問上及び実際上の同方面から、この問題の研究をいっそうに積む必要がある。 掃除前に運行していたるものが掃除後に止まる訳はないから、それは組立の上に欠陥のある事と推定される。 米国製にそれが無いといふのは 恐らくあなたがスイス製よりも米国製をよく理解して居らるるために正確の組立ができたのではないかと思はれます。 懐中時計の知恵は、一朝一夕に得られるものではないから充分に研究を重ねる必要がある。 又、数時間停止したとの点から考へると之は置き廻りと言ふ、つまり二番真と筒カナの止まりがゆるき為、 スイス製に於いては二番カナの中真の締め付けが弱い事に依って来る故障です。
24. ヘヤースプリングの締付け
[問]婦人用腕時計のヘヤースプリングを嵌め込んだ後にいろいろ困難の事が生ずるのは如何した訳か充分 に説明を乞ふ。多くの場合ヘヤースプリングを止めるのは整時機ピンで止めてあるが、 時としては平衡機(テンプ)のブリッヂの端の上で補足されることがある。 さうして又整時機の端にある事もあるが、この点に関して御回答を乞ふ。
[答] ヘヤースプリングは普通は懐中時計は猛烈な振動を与へているので、これをしっかり留めて置く必要がある。 だから整時機或いはブリッヂの上に車を造ってコイールの外側を締め付けるのである為に時により故障が起る。 こんなにして締付けることが起った際は時計師は注意するにある、スプリングの直径及整時機及びブリッジの一般的のデザインは スプリングを補足する事ができるやう補助力を有する様に造られているのだ。 他の場合に於いてスプリングのコイルは整時機ピンの光輪上の端の上に補足されるが、又若しこのピンは余り長過ぎるか短か過ぎるか、 ブリッジの端が曲っているなどの為にコイールが引っ掛かるものだから、これを直ぐ修繕する必要がある。 要するにコイールが整時機の上の方によく平らに留められていてこれが曲ったり引っ掛かったりしてはいけないのである。
25. ヒゲゼンマイの外れた修理
[問]私はある客から八ミリ四分の三、十五石入りの懐中時計の修繕を依頼されたのですが、 修繕後約一週間位の後にこの時計が故障を起こして仕舞ったといふので持参された。 これを見るとヘヤースプリングのセコンド・コイル(ヒゲ巻)の掴みが外れて正式のピンの外側にでているのを発見した。 こんな事が屡々あるのですから私は遂にこの正式ピンを注意して見ると余り別々に遠く離れていることを発見して これを修理したのです。 このヘヤースプリング(ヒゲゼンマイ)を曲げないやうにしてシッカリとピンで繋ぎ留めるやうに出来るのですが、 また、こんな面倒なことをやらないでも新しいピンを造ってヒゲゼンマイの掴みとする方がよいでせうか。 これ等の手当てを如何にせばよいか御教示に預りたい。
[答] 貴方は捲上げヒゲを留めるに正式のピンでゼンマイをシッカリと留めることをやらねばなりません。 貴方は極僅かしかピンを見る事が出来ないが、このピンはオバア・コイール(香箱)の下の方に行くやうな工夫をして、 また、この端が厄介者の磨石から自由に働くやうにせねばならぬ。 貴方はこの予防手段としてピンの端を外側から傾斜するやうにスプリングのコイールに対して傾けて引込み、 これを掴めばよいのです。
26. 修繕用ピンセット使用上の要点
[問]ピンセット使用の困難 --- 私はこの使ひ慣れたピンセットが大切の場合、例へば懐中時計の修繕をなす場合、 ヘヤースプリング(ヒゲゼンマイ)の曲ったのを発見するやうな時にこれを直線とする為に、 ピンセットがうまく働かんのには困るのである。 力を込めてスプリングを押付けるが如き簡単の作業にも、このスプリングはピンセットの先の間から逃れ易いのである。 コイルを強く曲げ過ぎの傾きがあるのです。 私の使用しているピンセットはボーレーのイ・イ及びビービーの種類を使用しているのです。
[答] 若し貴方が使用されているピンセットの先がその内側に於て表面が完全に喰合ふや否やを調べるのが第一の仕事である。 若しこの場合にその合ふ事が悪い場合には油砥石で両側をよく砥いて合ふようにする事が良いです。 又ピンセットの先がギザギザがなくなっているやうな場合も予想される。 また、お互いのピンセットの足が平行していないやうな時には、それを揃へる必要がある。 良いピンセットならばヒゲゼンマイを曲げるのには、そんなに苦心はいらないが、 ピンセットの喰ひ合せがシックリと合へばニッケル鍍金(メッキ)をせずに単純の鋼鉄製であり準硬鋼鉄を使用される方がよいのです。 そうして余り軽からず重からずといふ程度をよしとする。 お尋ねのボーレーのビービーのピンセットは運行中のスプリングを取り扱ふには適当ですが、 停止中のヘヤースプリンを特に曲げる等の場合には不適当であると思はれる。
27. 鋼鉄歯輪のサビ研き
[問]古代時計の修理 --- 私は美しい英国製の懐中時計を持っている。 この時計は誠に精巧を極めていて、この懐中時計は早期の龍頭捲のものであるのです。 処がこの機械の大部分が鋼鉄製歯車であるために大変にサビを生じているのです。 そこでこの種の時計のことですから料金には何等の制限も附けず、上手の技術者に対して、 この鋼鉄の部分を新品同様にして貰ひたいと申し込んだのです。 この平面の部分は、私自信で平面研磨具でよくサビを落としたのですが、恐らく長い時間が掛ったり、 又歯輪の処などはよくサビが落ちないのです。だから外に何かよい方法がないか御教示を得たいと存じます。
[答] そんな面倒な手段をお採りになるよりも、材料店から同一の新品を取り寄せて御取り替へになる方がよほど早途です。 然し是非とも古い鋼の歯車等のサビを落としたいならば、 あなたは歯科医用の豚毛ブラシを買って来て出来れば歯科医用の回転盤機を以ってこの鋼の部分を磨くとよいのです。 貴方がご持参の旋盤のチャックにこの毛ブラシをつけて尚油に砥石を混ぜて磨くと大変に効果的である。 その後にこの石粉を落してから油布でよく磨くとよいのですが、 尚この旋盤にブラシをつけて回転中は中くらいの速度で動かすと良いのである。 仕上げの磨きとはブラシの代りに油の布を使用してやると大変に良い結果をもたらす。 然し歯車の歯を磨くには手動機も使って一々丁寧にこれを磨かねばならぬ。
28. アンクルピンの修理
[問]テンプ振り切りの為めアンクルの剣先を引き延ばしたいのですが、その方法を教へてください。
[答] テンプ振り切りはガードピンが短きばかりでなく振座との位置の悪き為め例えばテンプとアンクル何れも ガタがあり過ぎて上下を通過する場合がありますからその原因を見極めてからかかるべきです。 それでガードピンだけ長目にするならば現今は主に二重振座(ダブルローラ)式であるからそのピンがアンク ルの真の方から又は反対側から差込みてあるかを見極めて、若し前者であって幾分にても太い方が残って 居るならば小ヤットコでピンの尻を其の嵌め込みある土台とを喰へて押し出し得れば簡単でその目的を達 し得るが、後者であるならば元のピンを引き取りて新規にピンを作りて差込み、その所要の長さに徐々と スリ取りて行けばよいのです。又旧式の一重振座(シングルローラ)でウオルサム旧式の様なピンが直立に なっているものならば前方へ形よく曲折すればよい。
29. スチールスケールの磨き方
[問]スチールスケール(鱗片)---私は堅い鋼鉄で棒や其の他のものを造りたいのですが如何にすればよいのですか。 この鋼鉄の外側は全部黒色となし、余り堅度を強化させたくないのです。 この外皮はスチールその自身よりモット堅いやうに見えるのです。 私はこれを研磨せんとした時に鑢がこの上を滑って仕方がなかった。 外皮を切断する代わりに傷つけないで外皮を取り去る方法を知りたいのです。
[答] この外皮の堅いのは、堅くする為に赤熱した鉄が空気中の酸素化に依って生じた「スケール」(鱗片)に対する苦情である。 だからこのスケールの生ずるのを防止する方法に熱する前に石鹸で鉄の表面を覆って置くとよいのです。 これは石鹸がスチールの表面を包んで一種の薄い膜を造って鉄の酸素との化合を防止するのです。 この赤熱せる鉄を水の中に入れて堅くしたから、石鹸膜を剥ぎ取った上に地肌を奇麗にするに外観色を美しくする磨きは楽である。 又貴方がいはれるやうな堅度を適当にするには冷やすのに時間が掛かれば掛かるほど度は軟く、これが急であればある程、 堅くなるから若し貴方が堅すぎるものを欲するならば湯に入れ高温の所からだんだんに冷やせばよいのです。
30. 天真の修理に就いて
[問]懐中時計の天真に就いて私は高級懐中時計のが破損したのの取換分として天真を使用したのです。 この天真を安時計に使用しても少しも面倒を起こした事がないのであるがこの理由を説明して欲しい。
[答] 貴方の説明で判断して天真を使用した場合に少しも熱を加へられなかったと想像されるのである。 また貴方がピンセットか又は管状器具の何れかで、真を曲げる前にアルコールランプの焔の上に万遍なく熱するとよい。 この場合に鋼鉄ピンセットは使用してはいけない。 これには、重い真鋳か銅ピンセットを以ってすればよく熱を保ち軟らかいのみでなく、 鉄の道具を使用するやうに真を変形にする危険がないのである。 この熱は真の性質を適当に下げると共に温められた道具で危険の機会を減少するのである。 若しその枢軸を折れるやうに悪く曲げるよりも新しい幹や小歯車輪が必要で又よい再範軸の技術が必要だ。 垂直に対して充分悪い曲げ方をすると折れる危険があるから低軟性となす事は必要だが、 これは他の有用の部分を壊滅に導く恐れがあるから注意しなければならない。 安時計には軟性の真を使用しているから却って破損する危険はないのです。
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