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時計技術の相互研究

101. 生タガネの焼き入れ

[問]五十本タガネですが生金らしく焼入れをしても入りません。 故青酸加里を附着して灼熱した後、水中に入れたのですが、なほ少しも焼き入れが出来ません。 仕方が悪いですか、それ共他に良い方法がありますか。恐れ入りますが御教示願ひます。

[答] 化学的の説明は省きますが一番簡単に焼入れるには味噌をつけて焼いて御覧なさい。 大体焼入れに酸素が必要なのですからこの分に適当してゐます。

102. 歯輪装置の完全なる理論

[問]懐中時計の歯輪装置(噛み合せ)の完全なる動作と理論を知りたし。

[答] 懐中時計の機械の原動力はゼンマイであるが、これが運転をなすものは即ち運動の傅波をなすものは総て歯車の作用である。 八枚の小歯輪と六十枚の大歯輪の噛み合せで機械は運動をなすものである。 これが動作と理論を述べる事は、到底為し得ない処である。

103. 歯車の喰合の不調和

[問]懐中時計を修理したら歯車の喰合はせがうまく行かない。 各歯車ゲージ(間隔)も合ってゐるし、ネジ等もよく締ってゐるが喰合はせが悪い。これは如何なる訳か。

[答] 実際の場合を見ねばよく判らないが、甲乙ニ個の歯車の歯のゲージもよく適合してゐる上にその位置も正しいとすると、 両者のうちいずれかの歯車に欠点がある筈だ。 また、喰合はせ具合を組立てて見てはその欠点はよく判らないから、組立前に甲乙ニ車をよく喰合はせて検査する必要がある。 若し組立前に何か故障がないかを調べなければならない。 喰合はせは、その不具合のみである場合にはヤスリと槌で大抵は修正する事が出来るものだ。 喰合過ぎる場合は擦り減らし、足らない場合は極く軽く小さな槌で歯先の方から斜めになるやうに打つとよく喰合ふものである。

104. ケレー車の錆び取り仕上げ

[問]ケレー車に錆が来たとき機械を一見したときケレー車が一番目に付きます。この錆を取ると大抵光沢を失ひ勝ちですが、 この場合変らない様にする方法はないでせうか。

[答] ケレー車の錆を取れば其の光沢が消えるのは当然です。然しその光沢を変らない様に防ぐことは不可能です。 ケレー車はその製造の場合に仕上がる光沢ですから若し消えた光沢を出すなら其の車のみを外して仕上げ直すことです。

105. 歯車止めの故障の場合

[問]懐中時計のゼンマイま逆転防止機即ち歯車止とバネの関係に何等の欠陥ありとも思はれないのに、 たまたま逆転を為す事があるのは何故か。又これが修理法を問ふ。

[答] 時計の運動機能中に於て最も簡単なる装置はこの逆転防止機である。これを機械と称するにも当らない程のものである為に却って、 いろいろの欠陥を生ずる場合が多い。 運転防止機は歯車がゼンマイの為めに運転するのを押ばねが歯車の間に入って防止する装置で、若しこれが運転するやうな 故障のあるのは一目瞭然のやうだが、なかなかさうでない。 多分歯車とバネとの噛合せが悪くて、バネの根本のネジがよく締って居らない為に、少し外側の部分が減ってゐる歯の処にかかると 運転防止がキカなくなる。 又バネが歯車の歯が磨滅してゐるか、屈曲が浅すぎるか、その他いろいろの場合をよく調べてから、 これに適当なる修理を加へる事が必要だ。

106. 天府真の造り方と入換えの種々

[問]懐中時計の天府真(バランス、スタッフ)の造り方、並びに之れが焼入れをなす方法、又之に使用する 鋼鉄の種類の選択を問ふ。

[答] 鋼鉄のスタッフ(天真)を造るには金剛砂の磨布で鉄片を白くなるまで磨くのである。それから之を真鍮の上に置きアルコールランプ で熱し蓮青色の現はれるまで之をためす。 このスタッフ(天真)に適する鋼鉄は坩堝鋼の鍬状棒(時としては株棒)を最適とする。 棒の色付け後は油砥石でその表面をなめらかに磨くのである。
天真の造り方については鋼鉄の長さを之の天真のハブの直径より分差て一ト目以上の地金を之の真の二倍位の長さに造り両端を 六十度位に尖らして(註 レース所持者は斯かる質問をしないだらうから之れは手引き作業の順序を記入す)手焼を入れて紫色まで 戻し(註 手焼を入れたままでは黒くて地金が汚いから油砥で地肌を白く綺麗に磨きブリキの小器に入れ、アルコールランプの 火の上で色の変って行くのを注意して紫色になったら敷紙の上へ落す)初めハブより下の方を荒作りにて削りて上ホゾの方を 平らにハブの大きさに削りてから位置を定めて天府の穴に合せて少し先細の気分で漸次穴にシックリとハブの面は平らにする事。 天府の穴より少し出し加減にヒゲ玉の入る所を作り、天府とアンクルの所を成る可く深く引き込むこと。 次にヒゲ玉の所の高さを狭めてその尖を細くなしホゾを作る。此の辺は元の折れた天府を逆さにして見くらべて見ながら削って行き、 ホゾの形を作って、今度は反対にキヌタにハサミ直して下ホゾの方を初めハブの高さを定め乍ら振座の入る所を削る。 此の振座の所は余り先細に目立つ様にせず振座の厚さだけ(一重振座の厚さ)打込めばハブに届く程度にして置き、下ホゾを 全部ホゾ石に合せて仕上げ最後に上ホゾの方を仕上げて行く順序がよい様です。下は実習か若しくは図面を用ひて説明しないと 判り難いのですが要するに天府とカラクリの所と振座のハマル所、並びにホゾの作り方に注意されたい。

107. 入ホゾと焼入れ順序

[問]天真の入ホゾを行ふ場合天府輪その侭で行ふことは可能でせうか。又入ホゾ後は何の程度に焼上げを行ふべきでせうか。

[答] 天真の入ホゾは天府輪からはづしてやるべきです。 しかし天府の入ホゾ等をする必要は近来ありません。新規にすべきです。 明治丗年時代の三井物産の特殊の天府真の外は皆入ホゾなどしてゐる手間で新規に作った方が得策です。 然し天府真を作り得ない様な事では時計技術者の資格は問題になる訳です。尚ほシリンダーのものが少しはあります。 シリンの天府真は胴が損じて居らぬものならば上下何れでも元のものを抜き取り新規に入れてホゾを作るのです。 此の仕事は特殊のタガネとアンド真を掴むキヌタによってやるべきで特に技術が必要です。

108. 両剣が波を打つ故障原因

[問]スイス製十六型提時計を修理して後試して見ると長針短針が突っかかって止まってゐます。 調べると長剣が僅かな波を打って廻ってゐるが、中真を調べても別に曲がってゐません。両剣とも別に悪いところが 見当たりません。原因御教示下さい。

[答] 上ホゾと下ホゾの噛み違ひがあると斯の如き剣が小さな波を打ちます。 又その外の点では通り違ひといって二番心棒が垂直でなく波状を呈して円滑なる廻転をしないでせうからその二点をお調べなさい。

109. 破損した地板のネジ穴填め

[問]懐中時計のプレート(地板)のネジ穴が、何かの為に破損して磨滅した場合に、この孔を完全に填充する方法は 如何にすればよいか。

[答] 時計の機械を固着する地板の孔が磨滅したか、又は新しい場所に螺線の凹ネヂを切って前回の孔を填めることの必要が生じた 場合の御尋ねと存じます。 この板の孔填め作業は非常に簡単ではあるが同時に巧妙な技術を要するものである。 填充材料としては真鍮及びニッケルが適当とされる。この材料は槌硬に適するものでなければならない。 板の孔に金属を填充する場合には、孔を丸く表面より裏面にV字型になるやうに削りその孔に尖りだんだんに大きくなってゐる 真鍮棒を打込んでよく嵌まった処で前後を切り取って、栓の頭を打ち潰すのが一番よろしい方法である。

110. 捻蓋の錆付き処理

[問]捻ブタ側が錆付いて固くて開ける事の出来ない時計があります。無理に振動を与へると天真が折れ各部分に衝動を与へ 悪い結果となります。又ケースにキズも付きます。此の場合困難致しますが、いい方法を御教へ下さい。

[答] これは非常に問題でありまして理論的には説明し兼ねます。要は側を傷めずに開け様とする技巧ですから、 現在良法にして他に無しとする方法を二つ説明します。
一、錆付いた側に油を塗って、これが全部にしみ込んだ頃、厚いゴムで裏蓋を押へて廻す事です。
二、木片にラック、又はニカワで付けて後捻廻す事。
右の二点以外はまだ良法は発見されません。

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