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時計技術の相互研究

31. 宝石類を固着する方法

[問]懐中時計の宝石受石固着法---私は懐中時計キチ歯車の受石及び受石等々を固着する上等のシェラック (ラックを薄めた液体)其の他のセメント剤を使用するが、これの製法を御問ひ申上げます。

[答] 調合剤のシェラックなどは材料店から自由に買入れることが出来る。 薄片のシェラックを以って受石を固着するには、ピンセットでシェラックの薄片をはさみ、アルコールランプの上を適当に○する。 (この場合にアルコールの焔が直接にシェラックに当たることは不可である)

32. 振子付置時計の誤差修正

[問]振子付の置時計が一日中に約二時間も進み過ぎるのですが、これを修正するには如何にせばよいですか。

[答] それは置時計の運行を司る脱進機をよく調べて見る事が第一である。 若しこの脱進機中のあるひとつの歯が連続打脈の場合にその○歯輪が余り深く次の歯に喰込んでいるからであるから これを修正且つ修繕をなすべきである。 又そんなこともないならば単純に振子玉の具合のみにあるから、これまでよりも玉を下げ振子の棹を長くして振子の廻転率を 遅らせれば調節をなし得るが、一日に二時間の誤差がある様では単に振子の上下の修正だけでは困難ではあるまいか。

33. 掛時計の捻子の取付け

[問]掛時計の深いケースの内側にある簡単にスクリュー(ネジ)を入れ替える方法を問ふ。私はこのスクリュー を機械(ムーブメント)で保持するといふのがいいと思います。私は仕事ある者が蜜蝋の固まりを捻子廻しで 板の上に付けてやるのを知っている。これは確かに捻子を捻じ込など正確の位置も定めるにはよい方法と思い ます。然し時として捻子頭に蜜蝋の為に汚点をつける惧れが多分にあるのです。これは○し蝋をよく落とすこと が困難であるからと存じます。以上の方法より良方法はありませんか。

[答] 迅速で且つ清潔の方法は貴方の掛時計のケースの中に木片を一方の端を剃刀の刃で捻子の溝より少し薄く削って、 これを捻子の溝に押込み、そうして捻子の穴に充分に嵌まり捻込まれるやうにすればよい。 これは上手の技術者は捻子廻しでうまくやります。

34. 時鐘時計の音響の調整

[問]時鐘時計の音響に就いて--- 私は客から時鐘時計の修繕を受けたが客の言ふには新しい時の音色と異なって固く且つ不調和であると言ふのです。 これに対して如何に改修したら良いですか。

[答] 時鐘時計の音階の不一致は多くは音質の好ましからざるに基因するものである。
(一)音管を強打した場合に強い音の出るのはハンマーのフェルトと皮のパット(当て)の関係に依るものである。 これは、音調の「コンパクト」(詰め込み物)のパットの材料に依るものである。 固い、塊の皮フェルトのパットを軟らかくせんとするのなら、針の尖端、針を半ダース位小さい弾莢の中に 入れて束を造りこの空間に廻転盤用セメントで固めたもので軽く皮を打つとよいのである。 若しハンマーの頭が薄い皮で包まれているならば直ぐ取替える必要がある。
(二)ハンマーが音管に対しての打方が逸れて強打している事を発見した場合には、このハンマーの打方が 音管の中央にて直(ハ)面に打つやうにしなければならない
(三)ハンマーが余り固く縮まっていて打鐘を停止するやうな場合には、この停まっている箇所を調べて、 これを緩めて音色に振動が出るやうな打ち方法にせばよい
(四)ハンマーが音管から全く不等距離に停止する時はハンマーの停止距離を等しくする必要がある。
(五)時計函(紙及びこれに類するもの)の上にて何物かがこの音管に触れているか又は音管が他の音管と 接触しているやうなことを発見する事もある。若し接触していなくても音管が音を発せぬ場合がある。 これは音管が余り固く吊上げ過ぎて振動率がなく従って余韻がない為である。それ故に音管は出来るだけ 等しいスペースを取って振動を与へるやうにしなければならない。

35. 懐中ゼンマイの長さ

[問]懐中時計のゼンマイの適当の長さを問ふ。

[答] ゼンマイの長さは香箱の大きさや又は時計の種類によっていろいろに異なるが大体においてゼンマイの渦巻 が十三乃至十三半廻りのものを適当とする。そうして竜頭で六乃至七廻転で捲けるものを普通とする。

36. ヒゲの掃除法

[問]鉄ヒゲを揮発油で掃除した処、サビが出ました。何処に手落ちがあったのですか。

[答] 鉄ヒゲは分解掃除する時、ヒゲを揮発油の中に長時間つけて置くことは絶対に禁物ですから鉄ヒゲを洗ふ時 には揮発油にジャブジャブつけたら直ぐに上げて拭き乾かすと宜しい。学理ではヒゲの如き細少の物体はベ ンジンの中に四、五秒以上入れて置く時は鉄地金に天然の油気を含み居るものを吸ひ取ってしまふからサビ 易いといひましてヒゲの如きは後に油を付けるといふ事が出来ないのですから注意するべきです。

37. 磨用ハケの使用法

[問]時計機械の磨用ハケの用ひ方と用ふる粉の種類と磨き方を知りたし。

[答] 磨用にハケを用ふる場合は極く毛の軟らかいのを使用するがよい。硬いものは地板に傷を付ける恐れがある。 磨き粉は普通赤粉の良質なるものを使用する事、更に油気を取去る為めに角粉を用ふる事の順序でよろしい。

38. 懐中時計の文字板の捺印法

[問]スイス製造家が採用しているダイヤルの上にセコンド(秒)及びミニット(分)等の文字を捺印する方法を知りたし。

[答] スイス懐中時計製造家に採用されているダイヤルの上に文字を捺印する方法は多種多様で一々説明の煩に耐えないが、 大体二つの方法を以ってダイヤルの製造をなしているものがある。 この二つとは硬性エナメルのダイヤルと軟性エナメルのダイヤルの二種類である。 軟質エナメルといふのはペンキの自然の侭を使用したものでこれに印刷機及び手で奇麗な標点ブラシの文字型を以って捺印する。 この文字は如何なる液体でも又は単に撫でる事のみでも消滅するものである。 硬性エナメルといふのは事実上の陶器であるが特別の工程を要する。 文字をダイヤルの上に捺するのは最初に深い彫刻を金属の上に施し、 この上に強力な硬エナメルを塗って強い火で熱するとエナメルが解けて、これが冷めるとガラスのやうに硬い面ができる。 これは撫でても薬品でも消す事はできないものだ。 この硬性ダイヤルに文字を置くには、軟性エナメルの文字をダイヤルの表面より高く盛り上げるやうにしておくのである。 硬性エナメルのダイヤルの文字はシニイダー処理(青化液法)で洗って後に元のダイヤルに戻す事が出来る。 そうして更に新しい文字を置く事ができるのである。 然し軟性エナメルのダイヤル上の文字を消す場合には地台のエナメルも解けるから文字のみの修繕は出来ない。 この点をよく考へてダイヤルの文字を造る必要がある。

39. 古時計に文字板付けの場合

[問]古い懐中時計に新しい文字板をつける場合に、この足が地板にあけられた孔に一致しない時に新しく 孔をあける方法を問ふ。

[答] 第一の作業上の注意点としては、新しい文字板の足即ち新しくあける孔のブリッヂ(架橋)が折れ孔の下に 捻子廻しが使へないやうな場合には直ちに中止しなければならない。 この以外にはなんの面倒もなく孔をあけることが出来るのだ。 地板上の適確の位置に孔をあける事、反対孔を掘る事、地板の○旋の孔をあけることをすればよい。 但し、孔が残っている場合にはこれを白蝓で填めるのであるが、これには白蝓の上を炉でよく平らにやるとよいです。

40. ダイアルに文字を書く法

[問]懐中時計に文字を付けるには如何にせばよいか? この文字は強い処理液の中で洗ふのであるから強いもので染色される必要がある。

[答] 懐中時計の上に号番や文字を記するには大抵の場合エナメルをこの番号や文字を彫刻した中に黒エナメルを使ふのである。 これは到って簡便であり且つ安全である。 これは自動車用の為販売されていてよく知られている。B・P・Sオウト・エナメルNo八十八がそれである。 懐中時計の金属板の上、又は他の部分にエナメルを塗布す、この過剰分は薄い刃物か又は箆(へら)で剥落すのである。 この文字を綺麗にする為めに、その表面や四囲を充分に掃く。 このエナメルを強くし、光彩を点する為に炉の中に入れて静かにこれを加熱するのである。

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