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時計技術の相互研究

11. テンプの振れと真の曲り修正

[問]テンプのたて振れを直す方法

[答] 御質問の要旨がたて振りとなって居りますが、たて振れの修理といふものは第一にテンプ輪のスポーク つまりアミタの両端が水平であるや否やを確かめる事です。 そして両極端が水平なることを確めた後振れのある部分を修正していくのです。 この修理の方法には自転車のスパナの様なかたちの切込みのあるものに依って其のスポークを曲げる事がよろしいと思ひますが、 若し御質問の要旨が上から見て左右に触れている場合の修理方法は 「謂所横振れ」自づからその修理法に別個の工夫を致さねばなりません。

12. テンプ真其の他の曲りを直す方法

[問]テンプ真其の他凡てのホゾの曲ったのを直すには何れもナマして修理するが外によき方法があらば御教示を乞ふ

[答] 凡ての真の曲りは余程の無理から起こるもので、その折れずに曲るくらいのものは焼きが弱い故ですから 焼きを戻さずその侭に直し得るものです。 但し静かに注意してなすべし、逆に曲げすぎて又之を直す様な場合は折れますから大物ならば兎に角、 懐中時計の如き極小の真は軟らかに焼きを戻す為に又焼入をなさねばならない。 然る時は其の真はヤセますから、元々丁度良いか又は摩滅していたものを細小にするのですから賛成し難いものであります。 若し不幸にして直す為に折れたら新規にすることがよいです。

13. エスケープメント不調の基原

[問]懐中時計のエスケープメント(脱進機)が平衡を失するのは何時に起こるか

[答] 私は未だ且つてエスケープメントが均衡を失して速度が超過するやうな場合を聞いた事がない。 私共は若し貴方のいはるる意味で何かの機会に堤を超えたとしたならば驚くべき事とは思はれるが これは何かの事情でこのエスケープメントの棹が受け石のバッキング・ピン(堤の針)が カンヌキ溝の内側の位置に変わったやうな場合を想像されるがこんなことはなかなかにないと思はれる。
時々宝石が棹の触角の外側を打つ事がある。さうして脱進機はこの働きを失するのである。

14. 歯車逆転防止バネの弾力修正

[問]懐中時計の歯車逆転防止用バネの弾力が弱いやうですがこれを強くする方法は如何にすればよろしいですか

[答] 懐中時計のコハゼハジキが弱いといふは如何なる程度か若し弱いといふのなら強力のものと取替へるべきです。 又焼きが余りに弾力の効かなきものなら焼きを入れ直すことです。

15. ヒゲゼンマイの鈍調の修正

[問]私は極く小さい瑞西製の懐中時計を持っているが、このヒゲゼンマイが時々粘着するがこれの防止策は如何にせばよいか

[答] 御問い合わせの事は、多分瑞西製の小型の懐中時計は掃除後暫くすると髭ゼンマイが粘着する傾向があるのに 対する防止策をお知りになりたいとの御問い合わせと思はれますが、これはなかなか困難なことである。
これは直接の原因から来るものの故障でないだけに掃除後暫くはなんの故障もないが、フイに進行が止まる この煩はしさを探求するには相当の面倒がある。
この原因として挙げられいてるのは、 第一にメーンスプリング(主要ゼンマイ)の上にあまり多量の油を注入した為に油槽の外に漏れて、 油槽と中央(二番)歯車との中間に流入して来るので小型の懐中時計でも単に油が漏れただけでは何の故障も起こらぬが、 時計の動揺につれて髭ゼンマイの外側に付着し、だんだん中央(二番)歯車とゼンマイの外側の油脂が粘着を来す。 ゼンマイの上に薄い膜を作る事がゼンマイの活動を鈍くなすのであって、 つひにはゼンマイの「離合の働き」を不完全になし時計の機能を失はせる、 又今一つの故障の起きる原因は過剰の油がテンプ真の上側に溢れ出し髭ゼンマイの機能を抑制する。 この防止方法は絶対に余分の油を差す事を避ける途あるのみである。

16. ネジ(スクリュー)の錆付き抜きの方法

[問]懐中時計の鉄製ネジの部分がサビ付いて来たので、これを取り去りたいと思ふがこの方法を問ふ。 又鉄のネジを普通の方法で明○水で腐食せしめて取り去る方法を使用したが、なかなかうまく行かないが これを適当にする方法を問ふ。

[答] 現在の懐中時計にては鋼鉄ネジは常に油が潤沢に塗ってあるから、よくよく手入れしなかったとか水に入れる とかしないでサビを生ずるやうな事がない。 若しまたサビを生じたとてこれを腐食さしてから取り去らなければならないといふのは如何なるわけか、 普通のネジでは如何にサビ付いてもネジ廻しで取り去る事が出来る訳である。 若しそれでも取り去れないとせば廻転板で取ると宜しいのです。 明○水で腐食さしてから取り去るが如き原始的操作法はつとめて避くべきである。

17. ゼンマイの度合いと嵌込みの注意

[問]懐中時計のメーン・スプリング(主要ゼンマイ)の嵌込みに関しては私は極く上等のゼンマイを香箱の中に入れやうとしたが、 うまくゆかず折れたり曲ったりしました。 特にゼンマイが拡大しないのを発見しましたこのスプリングの長さは香箱の直径の四倍に当たるものを使用したのです。 スプリング嵌込みの法則を教示して頂きたい。

[答] 貴方の御質問はゼンマイ香箱中にゼンマイが大抵、十二巻位であって香箱内でゼンマイと空間と巻き真が各 三分の一づつ直径を占有する事を条件と定め、即ち十二巻で空間は三分の一以上あれば弱いから以上の強いものと替へるべく、 又三分の一より空間が狭くなるゼンマイは強すぎるゼンマイを無理に香箱に嵌込む結果であるから遂には切れたり盃状になるのです。 又嵌込むときも静かに引き延ばさぬ様に順序よく平らに途中で休んだりぐづぐづして急に力を使用する様な無理をせぬ様にすることです。

18. 懐中ゼンマイの接続方法

[問]懐中時計のゼンマイの切れたのを接続する方法を問ふ

[答] 懐中時計のゼンマイを接続する方法は殆どない。 こんな仕事はその労力に相当せん程に今はやすいゼンマイが供給されています。 昔はゼンマイの接続はなかなか大きなものだった。ゼンマイの切断せる箇所に依って、その修繕が全然異なるから、 若しゼンマイの引掛けの部分で折れたならば新しく穿孔して再び取付けたならば、殆ど新品と何等異なる処なく、 この機能を発揮し得るのであるが、他の部分のゼンマイの接続をなすにはアルコールランプでゼンマイの両端の焼戻しをなした 上一方は穴あけ一方はT字形となし其の穴にT字形を嵌め込みて接続するのである。 然し時計の生命線とも心臓ともいふべきゼンマイを接続して再度使用する事は極力避くべきである。

19. 主要ゼンマイ切断の基因

[問]毎度同じやうなことをお尋ねして恐縮ですが、懐中時計の主要スプリングの掃除後極く僅かの時間中に破損するのですが、 これは如何なる訳でしょうか。或る懐中時計の如きは掃除後僅か二時間後にスプリングが破損したのです。 私は常には掃除せず単に新しい油を差したのみです。 沢山の懐中時計にはこんな事は起こらんのですから恐らくは掃除の少し前に於いてあまり厳しく巻いて置いたのを その侭(まま)に再び巻いたのではないでしょうか。これに関する御意見を承りたいと存じます。

[答] メーンスプリングの破損に関しては一定の定義は無いのですが、ある学説に従へばスプリングの鋼鉄それ 自信の不完全の為とあって当然製造所の責めに○すべきものであるといふのである。 私もこれは掃除の工程の如何によって起こるべきでなくて何か外の事故に依って起こるものと信じます。 主要ゼンマイは時々包紙中にも破損するが、これはゼンマイの温度の変化で延縮みがゼンマイに起って切断される為と思はれるし 又巻方の悪い為とすると大抵は渦巻の部分の軸部から二三回目の渦巻の部分に於いて起ると信ずるのです。 若し貴方が主要ゼンマイの掃除をしないで破損したとせば懐中時計の他の部分が掃除の本質的に対して誤っていないのだから 恐らくは主要ゼンマイの○弱に基因する。 普通の注意を以って処理してもその場合の破損の責は技術者ではなくて巻き過ぎか取扱ひは粗暴か または天然の温度の変化に基因すると思はれるものです。

20. メーンスプリングの修繕

[問]六型のセーフチ・バァレル(安全香箱)の懐中時計のメーンスプリング(主要ゼンマイ)が破損したのを 取換へる為に真正の製造所で造られた主要ゼンマイを取換えて四十八時間も経たぬ中に破損してしまったのです。 私はKSD印のメーンスプリングを入れたのですがこれは巻いても少しも破損しなかったのである。 如何にてこんな新しいメーンスプリングに破損の欠陥が起るのでせうか。私はこの困難に対する解決策を お聞きしたいのであります。

[答] 御問い合せのやうな原因不明の点でメーンスプリングの破損する場合が多くあるものですが、 この場合の破損の原因としては多く電気嵐(なんのことでせう??)によって破損されるものである。 この為に破損したのは最初の包み紙の中にて破損される様な状態に陥りこれがその侭断続されて使用された場合に こんな現象が起るものである。 貴方の懐中時計は古い型であるので或いは新型のスプリングが適合せずに破損するのかも知れません。 とにかく新しいスプリングに故障が起るのは正当の非難を受くべき筋合いではなく、 これは全く自然に起る現象であると断ずべきではあるまいか。

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