スイス時計とアメリカ合衆国
6年前アメリカで時計輸入税が50%引き上げられ、最近新たにこの期間が延長されたが、これは恐らくスイスとしては予期していたことであろう。 米国関税委員会のこの決定をスイスが遺憾の意をもって受け取ったことは不思議ではない。 これについてスイスは、この米国時計産業の政策は自己の地位をかためようと計っているものと判断している。 米国市場はスイスにとって今なお重要な市場なので、できる限り更に強力な宣伝が行われている。 たとえば昨年米国の "Regionel Merchandising Directors" (地方販売主任)をスイスに招待し、 Manufactur, Etablisseur, エボーシュ及び部品工場並びに時計工芸学校とノイエンブルクの観測所などを見学のために案内した。
スイスは米国の製造業者がスイスで自ら製造を行おうとする場合には、全然問題なく或いはほとんど問題なく許可するように優遇している。 すでに相当古くからスイスには米国人所有の工場 Bulova と Gruen Watch 社がある。 4年前ランカスター(ペンシルヴァニア州)の Hamilton Watch Co. --- 最も古いアメリカ時計会社の一つ --- は、 百年前に創立されたビールの時計工場 Luis Huguenin Fils S.A. を買い戻した。 この工場は、以前は Hamilton Watch Co. の支社 Hamill S.A. が引き受けていたものである。 買い戻しは勿論スイス連邦の許可を得て行われた。 このたび Huguenin と Hamilton は、官庁代表主席の下に新工場の落成式を行った。 その席上の挨拶で Henry Huguenin は、スイスと米国の協力によりスイスの由緒ある企業が優秀な時計の製造を継続し得るようになったことを力説し、 Hamilton Watch の社長は両社の融合によって優秀時計の販売を有利に導く両国間の技術的均衡化が行われたことを指摘した。 ちなみに Hamilton社は日本の名古屋にも電気時計の販売を行う支社を設けている。 このハミルトン・リコーの株式の60%は Hamilton の所有である。電気時計はまたスイス市場にも入ってくるものと予想される。
日本の時計業界もまた米国および南米にその観測所を設けスイス及び西独の競争会社の動静を探り、競争に処していることは勿論スイスでは知られている。 すなわち両者が関しし合っているわけである。 アメリカ市場でスイスとの競争を望んでいるのは、一人日本にとどまらず、西独及びフランスも市場獲得に力を入れている。 ソ連までも攻撃をしかけて来たが成功はしていないらしい。 しかしこの競争がスイス時計にとって何時か脅威になるだろうことはほぼ確実である。 スイスの専門家筋では、日本のみならずソ連の時計さえ、次第にその質が良くなりつつある時事実を認めている。 ちなみにはFHはソ連製腕時計の詳しい性能分析を発表し、その優秀性を認めている。 ソ連製の婦人用時計の側は、フランスのものに似て趣味の豊かなものである。 日本時計検査協会が、厳しい管理を行っていることも知られている。
最後にもう一度米国にかえり、6年来係争中の反トラスト訴訟について簡単に述べよう。 これについては、ほぼ一年来何の情報もない。 米国の州裁判所は、今は故人となった前連邦議会議員 Rubattel 氏からもスイス連邦裁判所判事 Pauchand 氏からも、スイス法についての情報を取り寄せている。 スイス側からは更に23人の承認が訊門された。 原告側、被告側(スイスの時計製造業者、FH、エボーシュ社及び米国に支店を持つ個別会社)もそれぞれ陳述書及び相手側に対する反対陳述書を提供した。 スイス人はこの訴訟は何の役にも立たないといっている。 すなわち米国での他の半トラスト訴訟と同じように、一向に進捗しない。
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