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スイスの時計産業

5. 新条例下のスイス時計産業

1952年の条例による(中間階級的)構造維持から61年の新条例による国際市場での競争拡大への政策転換が少なからぬ経営者によって不承々々認められたものであることは、 新条例が成立し、それに伴うすべての組織替えが行われる前に3年の長い間激しい論争が続けられたことからよくわかる。 今なお歯車を逆転させようとする者もいるのである。 かかる状態の下で業界紙「Die Schweizer Uhr」の一論文の中で、承認制撤廃の期間は恐らく守れないだろうと書かれた時にはセンセーションを捲き起こした。 Die Schweizerische Handelszeitung はこれを激しく批難し、条例に定められた期間は国会を通してしか延長されえないものであり、 また決して延長すべきものではないと書いた。

連合体機関紙「Der Arbeitgeber」は、その時計産業に関する報告の中で次のように述べている。 「(カルテル法案の中で)偉い経済学の先生方によって宣言された「競争を可能にする」という善行は一つの隘路にはまり込んだ。 即ち時計の目に見えない価格の下落を招いたのである。目に見えないというのは、統計による平均価格は上がっているけれども、 企業家の収益は、いろいろ厳しい要求に応じなければならないために、却って減少しているからである。 我々はこれが一時的な現象であることを願い、品質検査に伴う時計業界の全般的利益が、業界に負わされた義務によって生じる出費と釣り合いが取れることを希望する」 (即ち、統制規定は緩和されることが望ましいというのである)。

この記事を書いた人は、7月1日に発行した「Accords horloggers(時計業者協定)」についても解説している。 この協定は、ほぼ30年来3大連合体のFH,エボーシュ及びUBAH間の関係を調整して来た「時計協定」の後身である。 この時計協定を人々は皮肉を込めて「呪われた協定」と呼んでいる。 名称の変更からして既に、以前とはその目標が異なっており、つまり下部連合体及びその加盟員に対し一層大きな自由を与えるのが新しい目標であることは明らかである。 全体協定はもはや多数の下位協定を締め括る大枠を支えるものにすぎない。 「業者協定」は私法上のものであり、固定法を補足するものである。 従ってこの協定が時計条例発効後半年遅れて発行すべきことが予定されていた。

大枠協定は、先にも述べたように、一連の "Accords Complementaires" 即ち補足協定を含んでいる。 補足協定の第1の目標は、外国に対しスイス時計産業を防衛することであり、一方場合によっては外国と協定を結ぶことも考えられている。 次には連合体相互の関係を調整することである。 エボーシュや(ASUAGに属し)政府の規制も受けているトラスト加盟会社と他のグループとでは関係が異なる。 前者のみについて 1) 加工素材や調節部品の条件付き輸出許可の問題, 2) 部品型図輸出抑止の問題,及び 3) ASUAGグループの特殊な地位に関する問題等において、 従来一般に通用していた "Reciprocite Syndicale" (連合体互恵主義)が "Fidelite Reciproque" (相互信頼)に取り換えられたのである。 つまり法律上の又は法的な規定が、道徳的な義務に置き換えられたのである。 他の部門についてみると、供給側(fournisseurs)と得意先との間の従来の絶対的な相互関係は著しく柔軟なものに変わっている。 外国の競争会社に対する輸出については、必要な場合には特別な補充協定を作ると云うことで解決しようとしている。 価格については、一方的に価格が定められる危険をおかして自由の原則を通すことになった。 ただしエボーシュ及び ASUAG 統制下の部門は例外である。 共通の仲裁裁判所が設置され、協定当事者同志は順番に監督の役を引き受ける。 --- 以上この論文の筆者は最後に、この簡素化された新体制はあながち批難すべきものばかりでなく賛成すべき点も多分にあると結んでいる。

ところで、このようなゆるやかな新しい衣裳に着替えた時計業界の統一を保持することは、不断に取り組まねばならない一つの課題である。 ひどく散漫化した業界の構造を不可避的な活動と運営の集中によって安定させねばならいことは今やすべての関係者にとって明瞭な事実と目されている。 時計業者協定にこれまで参加しているのは、FHとエボーシュとUBAHである。 ロスコップ連盟の加盟は1962年秋に予定されている。

社会的観点から見た新条例

新条例の規定では、家内労働者にも---家内労働者は次第に減少しているけれども、時計業界では相変わらず必要な役割を演じている--- 工場労働者と同率の賃金が支払われることになっている。 その他の社会保障規定は取り上げられていない。というのは既に最初の条例以来経営者側と労働組合との間で、この種の問題は私法的に解決するということで一致を見ているからである。 1951年両者の間で"Convention subsidiaire"(副次協定)が旧条例と同じ10年の期限で締結されたが、このたび更に10年の期限で更新された。 この協定の同意事項によれば、すべての問題は団体ロア同協定に基づき規制される。 副次協定は解約されることは出来ず、ただ3年毎に必要があれば再検討することができる。 新しい協定は1960年11月に結ばれたもので、同年12月6日には補足協定が行われ---同じく司法上の基盤に立って--- 工業技術又は産業構造上の原因から失業問題が起こった場合には、労働者の職場転換、配置換え、再教育等が配慮されることになった。 職員の組織も同じく1948年以来経営者側と協約を結んでいるが、同じ方向をたどっている。 その労働協約は1960年11月に後進された。 さらにベルン州とソロトウルン州では共同の職場相談所を設けて失業問題に対処している。 相談所では再教育のためのあらゆる必要措置を講じている。

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