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スイスの時計産業

4. 1961年時計条例

改正された時計条例は1961年の秋、国民議会及全州議会において圧倒的多数で承認された。 全州議会では反対0票、賛成36票、立法議会では賛成140票、無反対は無所属地方同盟の8票であった。 経営者及び労働者を含む経済界の主要団体は政府案を支持し、各政党は地方団体を除きすべて賛成した。 にもかかわらず国民投票に訴えるべく投票委員会が設置された。 投票結果は、賛成443,000票、反対222,000票で、この法案を否決しようとする動議は挫折することになった。 かくて新しい時計条例は1962年1月1日付けで発効した。

しかしこの法律に対する反対票の数はかなり大きなものであったことを認めねばならない。 その反対票の大部分は、数年来ドウットヴァイラーとその無所属地方同盟を中心に尖鋭化して来たカルテル反対者のものである。 しかし国民投票委員会は明らかに非常に異質的な要素から構成されていた。 事実委員会には厳しいカルテル花退社とともに --- 聞くところによれば ---  旧条例に対し新条例が帯びている緩和的性格に反対する時計製造業者も参加していた。 時計製造業者及び連合体役員の恐らくは相当部分が、時計政策のこの根本的な転換に不満であったのは当然である。

根本的な転換とは、1951年条例では時計産業の所有者階級及び中産階級的構造の現状維持が志向せられていたが、 新条例は、連邦議会の法案趣意書の文句によれば、「時計産業界の自由競争の状態を確保し改善することを将来への目標とすべき」なのである。 ただしそれは180度の転換によって急激に行うのではなく、一層広汎で又安全な自由を目標として漸新的な移行措置を講じつつ注意深く行うのである。

この新時計条例は、法律---即ち「スイス時計産業に関する連邦会議決」とこれと同時に発行した6つの施行令と経済省の1省令とから成る。 施行令が扱っている項目は、1)技術統制, 2)輸出, 3)労働, 4)法的保護, 5)販売, 6)手数料であり、連邦経済省の「省令」が規定しているのは、時計製造機械の輸出の問題である。

法律、施行令、省令の三者が一体になって「時計条例」の形になっている。新条例も旧条例もこの点では同じである。 両社とも現存するものを組織的に発展させるためであることに変わりはないが、新条例ではその目標が根本的に変わっているのである。 以前と変更のない点は、特別な新製品の輸出に対する統制と要承認の点である。 新しい点では、工場の新設、拡張、或る製品から多種製品への製造転換に対し許可を受ける義務は廃止になったこと(ただし製造転換には特定の移行期間を置かねばならない)、 及び分岐した製造部門を大幅にまとめようとする方針である。 最も根本的な改正点は、すでにフランスや日本で行われているような国家による義務的な品質管理の導入である。 また連合体非加盟国たるアウトサイダーにも研究費の分担義務が課せられたのも新しい改正点である。

この法律をもう少し詳しく見てみよう。 草案は経済省次官フーバー博士の手になるもので、--- 我々の見るところでは --- 構造の形が明確簡潔で、各種連合体を有する時計産業のような複雑な構成体を31ヶ条で手際よくまとめている点では、立法作業の一傑作である。 それは7つの項目に別れる。

項目 1 適用範囲 :

第1条。ここでは既に根本的な改正がなされている。 すなわち旧条例の適用範囲は小型時計と大型時計を含んでいたが、 新条例のそれはもはや「機械落及び受けを入れて幅、高さ、高さ又直径が50ミリを超えない、又厚さが12ミリを超えない」時計及至はウオッチ・ムーブメントに限定されている。

項目 2 スイス時計産業の存在維持のための措置:

第2条から第8条まで。 最初に時計及びウオッチ・ムーブメントの国家による技術統制の実施が規定されている。 統制規準はその時の技術発展の状況及び市場の要求に適応すべきものである。 外観や形の特徴は考慮されない。罰則を含む細目規定は第7条までの各条に取り扱われている。 第7条は、次の行為に関し許可を必要とするように出来るという連邦議会の「権限」規定である。

即ち 1) 時計及び加工素材、加工素材の部品、調節部品その他の輸出及び販売、 2) (a)加工素材及び時計部品加工のための唐繰機及び特殊工具の輸出及び販売、 (b)ゲージ組立の見取図並びに特殊工具、唐繰機の設計図の輸出及び販売、 (c)ムーブメント、加工素材、時計部品の組立並びに仕上げに用いるあらゆる器機類の輸出及び販売、 3) 工作機械の輸出販売。 これに従わない業者には担当官庁と監査協約を結ぶように強制することができ、この協約書には罰則が明記されている。 第8条は、時計産業の連盟組織が、当該産業全体の又は個別部門の技術的、特に学術研究の領域における、 または商業的な自己救済措置を講ぜんとする時には、連合体非加盟者もまた「共同分担金」を寄附する義務があることを謳っている。

項目 3

第9条。連邦議会では、賃金問題を含み家内工業を規制するための政令を発布する権限が与えられている。

項目 4

第10条から14条まで。ここでは多種製造部門に着手する場合、又は工場を拡張する場合の承認制を廃止するについて、その経過規定が扱われている。 承認制は原則として5年後に、即ち1965年1月31日を以って完全に廃止される予定である。 最初の政府原案ではこの移行期間は4年であったが、全州議会がこれを5年に延長し、国民議会もそれに同調して、政府も了承することになった。 しかし旧体制に比べ細目について見れば既に承認義務が廃止されたものもあり、また中には移行期間の短いものもある。 たとえば1962年1月1日以降、従業員数の増員についてはもはや承認は義務はなくなった。 また以前の部門区分は相当細かく分けられていたが、新法律によれば18の部門区分に縮小されている。 たとえば時計の石の部門は4つの下位部門に縮小されている。このうち石の圧入は、62年1月1日以降承認制はなくなった。 更にまたネジ、ジャンパースプリング締金、丸穴座、丸穴リング、各種ばね及びゼンマイ引掛の製造、及び研磨、彫刻、焼き戻しについても承認制は廃止された。

1963年1月1日以降 Etablisseur から工賃を得て時計の組立て及び仕上げを行う Termineur は自ら Etablisseur に、即ち自立工場主になることができる。 同じく63年1月1日以降、Manufaktur, 即ち加工素材、調節部品その他の部品を自分の工場で製作する工場主は、その製品を他の Manufaktur に供給してもよいことになる。 Etablisseur は、やはり同じ時から請け負い契約に基づき Manufaktur や他の Etablisseur から時計又はムーブメント組立ての仕事を引き受けることが許される。

また承認をうける義務自体も以前に比べて軽いものになっている。 即ち次の3つの条件のいづれかに該当する場合、承認を拒否することはできない。 (a)申請者が、工場の新設、再開又は改造(或る製造部門から他の製造部門への転換又は多種製造部門の併合)を望み、 その経営に必要な知識を所有していることを証明した場合、 (b)申請者が、時計産業の発展を促すような特許新案、新しい製造法又は改良技術を採用しようとする場合、 (c)申請者が、その企業の存亡にかかわる新しい製造法が現れたため又は時計市場の状勢が変わったため企業の改造を必要とすることを証明した場合。 承認の決定は、主要な経営者及び労働者団体の代表者で構成されている専門委員会の意見を聴取した後、経済省が行う。

項目 5

通則、第15条から18条まで。 すべての会社は経済省が管理する名簿に登録し、所在地変更を含む企業に関するすべての改変は、これを申告しなければならない。 経済省は、調査、鑑定、統制措置を行うことができる。 統制を委託された者は、部外に対し秘密を守る義務がある。

項目 6

法的保護及び罰則、第19条から27条まで。 この法律に基づく決定に対し不服である場合には、連邦議会によって指名される控訴委員会に控訴することができ、 更にこの委員会の決定については行政裁判所を通して連邦裁判所に上訴することができる。 重要なのは第21条で、時計産業連合体の自由競争制限措置に対抗する保護措置が規定されている。 この保護措置は、移行期間経過前に行われる場合には、事後承認の手続きに従ってよい。 承認手続きの実施には「特別委員会」があたる。 この委員会は時計産業の局外者を委員に加えて訴訟委員会を拡大したものである。 第24条は50,000フランのでの懲罰金を規定したもので、ただし技術統制、企業新設その他に関する認可及び登録義務に対し故意に違反した場合にのみ適用される。 第27条は違反の訴追及び裁定には州当局があたり、時計会議所は民間の利益を代表し、違反確定の場合は訴訟費用の弁償を要求することができる。

項目 7

施行及び終則、第28条から31条まで。 ここでは各施行令の発行に先立ち関係各州の政府及び時計産業連合体並びに時計専門工作機械の輸出承認に関しては当該製造者に対し諮問すべきことが規定されている。 この法律の施行に際し連邦議会及び経済省は同じく州政府及び時計産業連合体の協力を求めることが出来る。

さらに連邦議会は指令及び措置に際し専門的な意見を聴くために15名の委員からなる常任諮問委員会を設置する。 この委員会は関係各州、時計産業の代表者及び局外専門家で構成される。

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