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スイスの時計産業

税関統計による輸出状況

1961年の税関統計を見るとスイス時計輸出先の地理的分布、種類別及び部品別の輸出高、スイスが輸入した時計や部品について詳しい概要を得ることができる。 たとえば関税番号9101.26に該当する卑金属側腕時計のみをとり上げてみると、そこには136以上の輸出先が記録されている。

スイス時計の輸出の花形はなんと云っても腕時計である。懐中時計は大幅に後退している。 1961年の時計輸出総額は、1,313百万フランであるが、その内訳は金側及び白金側の腕時計が195百万、金メッキ側が36百万、 卑金属側が705百万で、合計936百万フラン、つまり輸出総額の75%を占めているのである。 これになお組み立て済みウオッチムーブメント(関税番号9107.01)202百万フランが加わる。 その内訳はアメリカへ122百万、カナダへ36百万、ついでイギリスへ12百万フランである。 アメリカは6,583千個のウオッチムーブメントを輸入し、金側又はプラチナ側の腕時計41,000個、金メッキ腕時計13,000個、 卑金属側腕時計4,560千個を輸出した。 金側、プラチナ側、金メッキ側の腕時計は合わせてもまだ総額百万フランを越えない。 卑金属側のものは75百万フランになる。スイス時計産業が側なし時計を輸出するのは、 アメリカやカナダやまた小規模であるが英国など輸入国側の圧力に迫られたときのみに限られている。 この点に関してはヨーロッパの得意先は逆である。 イタリアは金側及びプラチナ側腕時計のみで404,000個、価格にして43百万フランを輸出しているし、 西独は160,000個、22百万フランを輸入している。 卑金属側の時計については、西独は1,115個、29百万フランを、イタリアは739,000個、28百万フランを引き受けている。

スイスは従来ウオッチムーブメントについてもそうであるが、それよりも各種加工素材や部品の輸出は止むを得ない場合にもできるだけ控えるように努めて来た。 これについては時計産業に関する新条例及びそれにかかわる時計組合の取りきめに関する章において述べることにしたい。 要するに既に3年来この点については次第に自由な態度を取る方向に変って来ているので、それに応じてこの関税品目群の輸出数字も部分的には増大しているのは不思議でない。 かくして加工素材や側なしのはだか機械の輸出は1960年の1,651千個、12.9百万フランから61年には1,972千個、15.1百万フランに伸びている。 しかし輸出先はもっぱら1,396千個、10.5百万フランを引き受けた西独及び572,000個、4.5百万フランを買い入れたフランスに限られている。 この優遇措置(もしこういえるならば)は、3年来特にスイス側からこのEEC両国に対し働きかけているように見受けられる相互の緊密な接触を作り出そうとする努力に関係があるように思える。

さらに税率表の9111.40項についていえば、時計や機械用の石の輸出は18.1百万フランになり、そのうち6.5百万はアメリカ向け、3.7百万は西独向け、 3百万は日本向け輸出である。最後に税率表9111.60のその他の部品について述べると、輸出総額は44.1百万フランで、内訳は非常にこまかい。 ただ西独がひとりで15.8百万フランを買入れ、これに6.2百万のフランス、5.3百万のアメリカが続いている。

税率表の時計の項に属する他の品目群について一瞥してみよう。まづ問題になるのは税率表の9101.30項かに至るまでの貴金属その他の金属側の「その他の時計類」で、 これの輸出実績は総額約18百万フランである。ついで税率表の9102.10項から9102.18の項目に属する置時計、ウオッチムーブメント付きの目覚時計が来るが、 この品目では卑金属側のものが5.4百万フランで比較的高い実績を挙げているにすぎない。 車両、航空機、船舶用の計器盤用時計の類は1.6百万フランに達しているにすぎないが、その理由は各自動車生産国では計器盤用時計をできるだけ自国で調達していることによると思われる。 スイスには乗用車産業はなく、比較的小規模な量産を行っている貨物自動車産業があるにすぎない。

税率表9104.10−40は振子時計、ウオッチムーブメントを有しない目覚時計等及びその他の大型時計---小型電池付き、電気式、その他の柱時計、置時計及び目覚時計---の品目を含む。 このうち目覚時計の輸出額が最大で7.9百万フラン、これに「その他の」柱時計、置時計が続き5.7百万フランである。 電気式柱時計、置時計は1.3百万フランの成績を挙げたにすぎないが、前年度の実績は0.7百万フランにすぎなかった。 電気時計については大型のもののみならず小型のものにも将来性が見込まれており、スイス以外の国でも研究されている。

ムーブメント付きの制御装置や時刻記録装置(関税番号9105.01)は21百万フランの前年度輸出額に対し17百万フランで若干の後退を示し、 それに対してムーブメント付きのタイム・スイッチは10.1百万フランから12.0百万フランに増えており、 そのうち半分以上をフランス(3.3百万フラン)、西独、ベルギー・ルクセンブルク、イギリス及びスエーデンが輸入している。

関税番号9108.10の項目に属するその他の組み立て済ムーブメント中の電気式のもの(同期電動機を有するものを含む)は1960年の0.7百万フランから1.6百万フランに伸び、 「その他」(関税番号9108.20)の輸出は0.9百万から1.6百万フランに上昇している。 この税関統計からだけではなお充分確認はできないが、ともかくスイス時計産業は本来の時計分野を越えて自己を拡張しようとしている趨勢にある。 (これについては時計産業に関する新条例が時計産業政策に対しどのような影響を及ぼすかという問題を論ずる際に改めて立ち帰ることにしたい。)

税関統計は更に各品目について平均売価を出している。 これによると平均価格が下がりつつあるのはすでに数年見られる傾向である。 勿論時には例外もあり、たとえば60年から61年にかけて各種懐中時計の平均価格は上昇している。 しかし懐中時計の輸出量は比較的小規模なので、全体に対する時はたいした影響力を持たない。 しかしまた卑金属側の腕時計の売価は殆ど上昇していないが、これに対し金側及び金メッキ側腕時計の価格上昇はかなり大きい。 このことから価格に対しては様々に異なる。 また全然逆な要因が働いていることを推測できるようである。 すなわち貴金属側の腕時計に対しては、比較的高い代価を支払っても優秀な品質と贅沢な細工が望まれている。 中位及びやすい品質の時計では一方では外国製品との競争が著しいが他方ではほぼ6年来リベートによる国内的な危機を招来した投売りが次第に抑止されつつあるのが認められる (これについては後述する)。

ウオッチムーブメント(9107.01)の価格は19.92フランから18.62フランへとかなりな値下がりを示している。 贅沢品への要求の高まりは部品の輸出にも示されており、このことは時計の側(関税番号9109)の価格が大部分上っているところから推測できる。

贅沢品への要求の高まりは部品の輸出にも示されており、このことは時計の側(関税番号9109)の価格が大部分上っているところから推測できる。

ここで簡単にスイスの輸入状況について見ておこう。 税関統計を一見すれば直ちに、懐中時計及び腕時計は殆ど輸入されていないことが判る。 関税番号9104.20の小型電池付きの柱時計及び置時計の項で初めて輸出入が殆ど相殺されている(両方とも0.6万フラン)のが判る。 その次の9104.22の電気式柱時計及び置時計の項では、5.7百万フランの輸出に対し輸入は3.1百万フランである。 9104.40の目覚時計の項では輸出が7.9百万フラン、輸入が3.3百万フランである。 9105.01に該当する。時計記録装置付き制御装置は、輸出が1.7百万フラン(後退している)で、輸入はほぼ2百万フラン(前年度1.3百万フラン)である。

9109.10の時計の側及びその部分品については、2.8百万フランの輸出に対し、4.5百万フランの輸入である。

9111.40の時計及び機械用の受石の項は興味ある現象を示している。 この品目は輸出額18.1百万フラン(前年17.1百万)で目ぼしい輸出品目の一つであるが、 また同時に輸入額も可也にのぼり6.9百万フラン(6.0百万)を記録しており、しかも殆ど専らイタリアから(6.5百万フラン)の輸入である。 確実な筋から聞いたところによると、イタリアはジェノアに世界最大の時計石工場を有しており、 この工場は数年前スイスの同業組合を脱退した一人のスイス人が創立し経営しているとのことである。 この工場は現在全世界に向けて供給している。

9111.52の幅5mm未満のゼンマイは5.3百万フランの輸出に対し輸入額は3.1百万フランである。 この品目の輸出の平均価格は200ポンドにつき21,821フラン、輸入平均価格は55,729フランである。

最後の関税番号9111.60その他の部品は輸出額は44.1百万フランで前年度より3百万フランの伸び、 輸入は3.1百万フランから3.7百万フランに上昇している。 この品目では逆に輸出平均価格の方が高く、輸入平均価格が200ポンドあたり21,577フランであるのに対し73,831フランである。

スイスの時計産業界は当然のことながら、国際競争の状況をできるだけ把握しようとしている。 スイス時計会議所では、これに関連して1960年度の状況を発表した(第5表)。

第5表 時計及びウオッチムーブメントの世界生産高及び輸出高(1960)

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