3. 時計組立に対する一般の注意
組立に際しては、各部分品をヒゲ箸にて挟んで他板に嵌め込まんとする毎に、疵見にて糸埃が付着しては居ないか、悪い箇所の見落としはないか等を良く検査する。
全舞の油は、全舞を入れる前に香箱内に少量の油を引き、全舞を入れ、香箱真を入れたる時に渦の上から注油をなす。 量は全舞全部に行き渡ると云ふ程度で、決して流れ出る様にやってはいけない。
香箱及伝車、即ち五番車迄嵌め込んだら、一番より五番迄の両ホゾに少量の注油をなし、各車にも車の両面に油が流れ出ない様、 歯の側面に廻転せしめつつ少量の注油をなし、龍頭を極静かに廻して、各車を廻転せしめ、其の廻転の具合を見る。 速く廻転せしむれば、少し位の欠点故障があっても発見することが出来ないことのみならず、往々ホゾを折る様なことがあるから、 五番車の歯が見える位緩やかに廻転せしむれば、少しでも故障があれば其の箇所で一寸止まり、少しも故障なければスラスラと一様に廻る。 若し少しでも故障を認めたら、何れの車に故障ありや云ふことを検べる。故障ある車は常に同箇所で一廻転毎に停止するから、直ぐに発見することが出来る。 故障ある車を発見したら、直に其の車だけ取外して疵見にて良く検べ、悪い箇所は修理を施す。 斯くて伝車に故障なきを認めたならば、アンクルを取付けて龍頭を約七回位巻き、アンクルの具合を試すのである。
之は、針先にてアンクル刺股の外部両端を交互に僅の力にて触れる。そうすれば完全なものなら反対側のユトリ止栓迄、元気良くパット行って止まる。 具合悪きものなら元気良く緩やかに動いたり、或いは元気良く行っても、其所で停止せず直に始の方に戻ったりする。 之をガンギ車の一廻転だけ試して、故障なければいいのである。
それから、刺股の両方の動き具合は、天府ホゾ穴より同一距離であるや否や、尚又振切止栓が短くなったり曲がったりして居る為に、 タボ座の切込み以外の点でタボ座を通過する様なことがないか等も検査する。 そしてアンクル両ホゾ・爪石・刺股・タボ石・タボ座の周囲、天真両ホゾ穴等に少量の注油をなし、天府を取付けるのである。
タボ座の位置は、其静止せる場合に、地板に於ける天真ホゾとアンクルホゾ穴とを結び付けたる一直線上になければならない。 之をビートの姿勢と云ふ。
天府を押に取り付けたるまま、天府押のホゾ穴注油は、慣れない中には一寸やり難いのであるが、慣るれば何でもない。 先づ天府押を仰向けて左手拇指と中指にて之を摘み、示指にて天府を左掌の方向に少し移動せしめ、 天真ホゾが押の側面に落ちる位にすればホゾ穴上に来るヒゲの渦の間隔が広く開くから、其間より小さき油筆にて注油を行ふのであるが、 此際決してヒゲに油が付着せない様、注意を要する。 少しでもヒゲに油が付いてはいけない。其時は小筆の先に少量の揮発油を着けて、之で良く拭き取らねばならない。ヒゲ及天府には決して油を付着せしめてはならない。
2012.1.31 作成中 続きます・・・
出典 時計並蓄音機学理技術講義録 大阪時計学院
(大正時代)