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懐中時計の基礎知識

11. ヒゲ玉

ヒゲ玉の破損せしものは、新品と取替えるより外ないのであるが、 少し位緩くなったものは、ヤットコにて締付けて直すことが出来る。

12. タボ座(タボ皿又は振り座)

タボ石が折れたり、瑕付いたり、或はガザ付いたりするのは、新品と取替ゆるより外、修理の方法はないのである。 之は、成可上等の石を使用した方が宜しいが、修理料を値切られたり、安時計で料金を安くした場合等、 或は急場で丁度いい石が間に合わない様な場合には、鋼又は真鍮等で作って嵌め、間に合わしても仕方がないのである。 併し高級時計に於いては、間に合わせ物ではいけないから、必ず上等の石を取り寄せて嵌めなければならない。 それから、タボ石が、ビートの姿勢にあらざる場合には、ヒゲ玉の割目に小さきネジ廻を突き込んで、 之をビートの姿勢となる迄コヂ廻す。タボ石の取付法については、後述する。

13. アンクル

アンクル竿・下駄歯体・軸真・爪石等の折れたるものは、取替える。 爪石のグラ付くのは裏面よりシケラックにて固着する。爪石の疵付いたりガザ付いたりするのも、新品と取替える。 刺股の少し位疵付いたり、ガザ付いたりするのは、良く磨いたら宜しい。 振切止とタボ座との距離が、多過ぎて振切を起こす時には、振切止を少し長くしたら宜しい。 即ち、瑞西式の振切止だったら、少し押出して長くするのだが、押出しても出ない時には、之を反対に押出して抜き去り、 新たに真鍮針金にて製作して嵌め込み、適当の長さに切断し、先端は丁度ネジ廻の先見た様に、摺り磨くのである。 米式即ち単一タボ座の振切止だったら、タボ座の方に少し曲げる。 其程度は振切止の通過する切込に対して、僅かにユトリが有って、其の切込が廻って来ない中には、決して通過せないと云ふ程度である。 之等が折れた場合には、真鍮針金を以て作り取付ける。 爪石の取付けに就いては後述する。 ホゾの曲がったのは、天真と同様に処理する。素人がいぢったり、下手な時計屋の手にかかった場合等、 往々アンクル竿を曲げて居る時がある。 左右何れかに曲がって居る時には、刺股が地板或はタボ座に触れたり、振切止がタボ座より外れたり、 タボ石が刺股より外れたりする様になるから、何れの場合でも、其の曲り方を良く調べて、一応焼を戻してから、 小ヤットコにて、下駄歯体に近く竿を挟み、拇指を以て静かに押して直すのであるが、決して無理をしてはいけない。

14. バンキングピン(アンクルユトリ止)

之が調整の為に曲げられたのなら、別に必要はないが、曲がった為に、調整が破れて居る場合には、 夫れがキチット嵌まる位の穴タガネに、バンキングピンを入れ、静かに起こして直す。 決してヒゲ箸等で挟んではいけない。 之は折れ易いからである。折れたる場合は、針金を裏面より確り打込み、適当の長さに切断して作製する。

15. 伝車

伝車の歯が折れたる時は、入歯法を行ふのであるが、ガンギ車に限り之を行ふことは出来ない。 之は絶対に取替へなければならない。 歯車全体が上下に振れたり、歯が同様に振れて居るのは、振見器にかけて直す。 振れて居るや否やは、振見器のゲージに依って解る。 歯が横に、即ち平面的に曲がって居る場合には、決してヒゲ箸を使用せず、懐中用のネジ廻を深く突込んでコヂて直すか又は、 小ヤットコで挟んで直す。総て鋼や鉄等の歯車が、折れたり摩滅したりしたのは、取替える以外方法はない。

▲ 入歯の仕方
▲ 歯の曲がりを直す

出典 時計並蓄音機学理技術講義録 大阪時計学院
(大正時代)

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