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懐中時計の基礎知識

7. 天府を取外す・・

之等の検査が済んだら、天府を取外すのであるが、之は押・ヒゲ・天府・タボ座等は、連続した儘取外していい。 そして先づ天真の両ホゾが曲がったり、折れたり、傷ついたり、ガザ付く様になったりしては居ないか、 タボ石は真直に正しく取付けられて居るか、グラグラ動く様になっては居ないか、 刺股と衝突する箇所が傷ひたりガザ付いたりする様になっては居ないか、タボ座は正しく円形であって、 其円周は何れの点に於ても、天真より同一距離であるか、其直径は正しい大きさであるか、其周円の縁が滑らかであるか 或いは傷ついたり又はガザ付く様になったり、歪んだりしては居ないか、其切込即ちクレッセントは正しい形状をなして滑であるか、 天真に対してグラグラ動かない様キチット取り付けられて居るか、ヒゲ玉は動かない様キチット天真に嵌め込んであるか、 ヒゲ持は押に正しくキチットぐら付かない様取付けられて居るか、ヒゲの外端は、ヒゲ持に栓に依って固く正しく取付けられて居るか、 上ホゾの穴石・受石等が割れては居ないか、緩くグラグラ動くように取付けられては居ないか、 穴の周円が傷付いたり大き過ぎたりする様になっては居ないか、受石のホゾの當る箇所が傷ついたり、ガザ付いたりしては居ないか、 受石と穴石との距離は正当であるか、即ち油を保存する丈の極少の間隙を有するか、 緩急針は余り固くも緩くもない様に取付けられて居るか、ヒゲ挟は、グラ付かない様に適当の長さ、適当の間隔を有して、 正しく緩急針に取付いて居るか、緩急針と受石との押ネジは正しく嵌まり込んで居るか、 出過ぎてヒゲ玉やヒゲ等に接触することはないか、等を精密に検査するのである。

次に、押を仰向けて仕事台に乗せ、天真上ホゾを押の穴石に入れ、天真を押に対し垂直に立ててヒゲを検査し、 次に天真を正規の運転をする様に交互に廻しつつ、尚ほヒゲを検査するのである。 ヒゲは天府を取外さない前に、一度検査したのであるが、天府押があるが為に、 中心の方は良く調べることが出来悪かったのであるから、尚ほ此際十分に検査を行ふのであるが、此検査はヒゲの平面的検査である。 即ちヒゲか片寄っては居ないか、又は平面的に曲がった所はないか、 其為に渦と渦との何れの点かが接する様になっては居ないかと云ふ様なことで、立体的歪みの検査は此際よりも、 天府を取外さない前に行ふべきものである。 立体的検査と云ふのは、天府を器械に取付けて、之を横より眺めたる際に、ヒゲの渦は全部一直線上に揃って、 天府輪と平行になって居なければならないのであるが、渦が一直線上に揃わず、上ったり下ったりして居たり、又は、 天府と平行になって居らず、傾いたりして居る様なことはないか等を検査する事である。
次に天真下部の受石・穴石の検査を、前同様の方法に依って行ふ。 尚ほ、念の為今一度、ガンギ歯と爪石との閉止・開進の状態を調べた方が宜しい。 之は針先で刺股の外部の両方に交互に触れて、ガンギ車が一周する間、閉止・開進の状態を、前に述べた如き注意を以て調べる。 正しければアンクル竿は、両方のバンキングピンに、交互にパッパッと引付けられ、押へ付けられる。此の際爪石の閉止は、 双方共三度で、刺股の動作は十三度で、而して其の中心線即ちアンクル軸真より天府ホゾ穴を結び付けたる直線より、 両方に刺股は各六度半宛動かねばならないのである。

8. アンクルを取出す・・

今度は忘れない様全舞を戻して置いて、アンクルを取出す。 そして爪石の閉止面・閉止角(ロッキングコーナー)・開進面等に、少しでも傷付いたりガザ付いたり、折れたりして居ないか、 又爪石は下駄歯枠にキチット動かない様にシケラックにて取付けられて居るか、爪石の下駄歯枠に対する位置は正しいか、 上ったり下ったりして、取付けられては居ないか等を調べ、次に両ホゾは真円であるか、曲がったり傷ついたり、 ガザ付いたり、摩滅して小さ過ぎる様になったりしては居ないか等を見る。
次に刺股は完全であるか、摩滅したり、傷付いたり、ガザ付いたりする様になっては居ないか、 刺股の角は完全であるか、傷付いたり、潰れたりしては居ないか、アンクル竿は錆びたり曲がったりしては居ないか等を調べたならば、 両ホゾ穴を検査する。 此穴には十五石以上でなければ石が入って居ない。石がないホゾ穴だったら、摩滅してホゾの位置が変更される様に穴が大きくなったり、 ガザ付く様になったりしては居ないか、穴石ならば割れたり、穴の内部が傷ひたりガザ付ひたりしては居ないか等を検査する。

出典 時計並蓄音機学理技術講義録 大阪時計学院
(大正時代)

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