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戦前・戦後の国産腕時計

5. セイコーカレンダーウオッチ

実物を所有していないので、当時の新製品紹介の記事を紹介します。 実物をお持ちの方は、写真を提供していただけると幸いです。

新製品紹介の記事のから(昭和26年)

終戦後我国で中三針腕時計が流行したと同じように、海外ではカレンダー付腕時計及自動巻腕時計が時計界に君臨していることは、 戦後の外国時計雑誌を見る時誰もが気付くところである。

当第二精工舎に於いてもカレンダー腕時計は既に試作が完了し、現在では量産に入っているが、 これをメーカーの立場から述べてみたい。

セイコー・カレンダー・ウオッチはその名の如く、月・日・曜日・時・分・秒、を表示しており、 ベース器械は現在製造中の10 1/2型を使用し、1.15粍厚くしてそこにカレンダーの部品をおさめている。 設計、製作にあたっては作動の確実を第一とし、故障発生箇所を極力少なくすると同時に、 製作及組立にあたっては嵌合部分を適正にし、特に摺動部分の完全磨きと相待って、 使用者に安心して持って戴けるよう細心の注意をもってあたっている。 更に機構の単純化、部品の共用、及製作の合理化等により、一般に普及出来るよう努力が払われている。 しかし確実なる作動を第一としたたため、新しく製作する部品が約63種を数えることは、やむを得ないことではないかと思う。 又万が一の故障には機構の単純化、部品の製作公差の僅少による互換の簡便、及棒はじき等の使用により、 修理技術者にもよろこばれることと信じている。

次に10 1/2型にカレンダーを付属することにより力の消耗があり、その為に天府の振りが落ち、ひいては歩度、 及持続時間に影響するのではないかとの疑問を解く為に、カレンダー装置の消費する力を検討してみた。 簡単に固定している元車と喰合う動車は1日1回転し、これが7曜文字を持つ歯車と接触する時間、 即ち曜文字板が回転し始めて落下するまで、約1時間半、日指針をもつ歯車とは約25分間接触する。 実験によると、文字板が回転し始めた頃は殆ど力の消耗なく、落下直前が最大になるが、 香箱でのトルクの消耗は7曜が約2gr-cm,日指が約2.5gr-cmである。 この時計の持つ全舞トルクは最大80gr-cm,24時間後で62gr-cmである為、殆ど影響しないことが分かる。 事実又3分おきに3時間歩度の変化を測定しても、24時間後のトルクでは殆どその影響がなく、 32時間後のトルクで僅かに1日1秒以下(10ヶの平均)の遅れを発見できるのみである。 天府の振り角は普通使用の150度以上では殆どその影響を認め得ない。 以上述べたようにカレンダーを付属することによるトルクの消耗は殆ど無視してよく、歩度の変化、及持続時間等、 従来の時計と何等変わることなく使用して戴けるものと思う。

次に、カレンダー時計使用上の注意として、従来の時計は午前と午後の区別はないが、 カレンダーは時間合わせを間違えると晝(ひる)の12時に曜文字板、日指針を送ってしまう。 又設計上7曜を落下2時間半前、即ち午後9時半以後に、又日は落下30分前に押ピンを押して調整すると、 翌日になっても前日を表示している。その為に7曜及日指針の押ピンでの調整は、なるべく午後9時以降には行わないようにし、 朝巻き時報に合わせる時に、30日から翌月1日に合わせると良いと思う。 カレンダー付腕時計は我国でははじめての製造であり、まだまだ研究の余地があるが、 今後大方の御批判を仰いでより完全で優美なカレンダーウオッチにして行き度い。

「時計とレンズ 9号」 昭和26年9月発行 より抜粋

実物写真

10型トリプルカレンダー

月表示(手動)付き

写真提供:OTMさん

貴重な写真をご提供いただきました。 セイコーの10型カレンダ付は「月表示」のあるものとないものがあり、 この写真の時計は、上記発表資料と同じ「月表示付き」です。 現存数が少ないこと、またカタログなどで確認できていないこと、保存されていた場所が工場所在地の周辺であることが多いことなどから、試作のみで市販はされなかったと考えられています。

このような状況のため、何か資料をお持ちの方は、ご提供いただけると幸いです。(トンボ出版 国産腕時計の著者とも連携して確認させていただきます)

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