3. サイズ・宝石何石入等の説明
諸子が修理専門店なり、又は時計店などを開店せる際、客より依頼せし時計を検査して之を時計預り證、 並 控帳及びエボ(奉書紙・・・コウゾを原料とする和紙)等に記載せねばならないのであるから、之等の記載方、 及之に必要なる諸件に就て説明をなすのである。
時計預り證の記帳法 並 型・サイズ・何石入等の説明
控付時計預り證 百枚綴りとなったものを備へ置く。 単に預り證のみで、控えが付かないものがあるが、之では又別に帳簿を用意し不便であるから、是非控付の方をお勧めする。 之には帳簿番号・時計番号・ 側の種類・ 時計名・ 型・ 宝石の数・ 整動機の種別・ 修理料金額・日付・仕上予定日・最終受取期日・ 客の住所氏名等を記入して、客に渡し置き、此の證に料金を添へて、受取に来た時に仕上げたる時計を、引合せて渡すのである。
受取った時計は、必ず予定日までに仕上げをなし、調整を済まして置かなければならない。 此の期日を正確に守ることは、甚だ大切なことで、期日が来る。客は受取りに来る。時計は出来ていない。 日延しをすると云ふ様では、自然客の信用をなくし折角得意となった客も一人減り、二人減り、店の存在を脅かす様になって来るから、 注意を払はなければならない。 此の仕上期日の見積り方は、各別に、其時計の修理箇所の難易、多少、其他一般模様に依って異なるのであって、 之は一概に云ふことは出来ない。諸子の経験に待つより外ないのであるが、仕上げたる時計の単に一方の位置に於ける調整には、 普通二・三日を見積もっていい。 極く正確なる調整、即ち位置・温度に対する正催なる調整を行ふには、少なくとも十日以上一ヶ月位を見積らねばならない。 在来の時計店では、之等の調整は殆どやって居ないから、諸子は事情の許す限り正確なる調整を行ひ、信用を得るに勉めなければならない。 帳簿番号は一より始めて順次記入し、時計番号は裏蓋又は中蓋の内面にあるから之を記入する。 器械に番号があるものもあるが、一定する為に側にあれば、其方を記入する方が便利である。
側の種類とは、 例えば、十八金の片側であれば十八K片と、無双側であれば十八K双、又は無双、或は両と記入し、 八百銀の専売側なら八百銀専と、ニッケル腕時計ならばケル腕と記載する。 腕時計は片側に極まって居て、大抵パリス側で専売側は滅多にないから、単に腕でいい。 それから龍頭巻・鍵巻等も記入する。
時計名と云ふのは、 時計の名で、ウォルサム・エルヂン・タバン、シーマー・モリス・モバード・ロンヂン・ナルダン・ チソット・エンパイヤ・セイコ等は其一例であって、文字板の表には必ず英字にて名を記入してある。 文字板のみならず、器械の表面にも同様に記入したものもある。之等は大概英語で記入してあるから、 諸子の中では読むことが出来ない人があるかも知れないが、併し之は読めなければ読めないで構はないから、 其代り他の点に於いて十分明瞭に記載して、間違なきを期せねばならない。
型とは 時計の大きさで、腕時計は八型と十型が一番多く、懐中は十六・十七型が一番多い。 米国製は十二サイズが最も多く用ひられて居る。 型とは瑞西・仏国等の呼び方で、サイズとは英米等の呼び方であって、之等は器械の直径を云ひ、側の大きさではない。 型をメートル法に直せば、八型は十八ミリ米、九型は二〇.三ミリ、十型は二二.六ミリ、十六型は三六.一ミリ、 十七型は三八.三ミリであって、型の単位は二.二五六ミリ弱(フランス吋の1/12)である。 ラインと云ふのは、型と同一である。
サイズは、一吋と三十分の五を土台とし、之を○サイズと称し、此の土台に一吋の三十分の一を加ふる毎に、 何サイズと呼ぶのである。即ち一吋と三十分の五の土台に、一吋の三十分の六を加へたる一吋と三十分の十一は六サイズと称し、 ○サイズに一吋の三十分の十二を加へたる一吋と三十分の十七は十二サイズと呼ぶのである。
12サイズ=1 5/30+(1/30×12)=1 17/30吋=39.7mm |
宝石の数とは、
穴石・受石・ダボ石・爪石等、其時計に入って居る丈の、宝石(ダイヤモンド、ルビー、サファイヤ、ガーネット、硝子等)の総数を云ふ。
例へば七石入と云ふのは、石が何処と何処とに入って居るかと云へば、天真の穴石二個、同受石二個、ダボ石一個、
爪石二個 計七個と云ふ具合に入って居り、
十石入と云ふのは、七石以外に、三番・四番・五番各車の上ホゾ穴に、穴石が各一個宛入って居り、
十五石入と云ふのは、十石入以外に、アンクル上下両ホゾ穴と、三番・四番・五番各車の下ホゾ穴とに穴石が入って居る。
十六石入とは、それ以外に、二番車上ホゾ穴に穴石が入り、
十七石入は、それ以外に、二番車下ホゾ穴に穴石があるか、又は五番車上ホゾ穴に受石があるか何れかであり、
十九石入とは、十七石以外に、香箱真の上下両ホゾ穴に穴石があるか、又は五番車或はアンクル両ホゾに受石があるか何れかであって、
二十三石入とは、十五石以外に一番・二番各車の上下両ホゾに穴石を有し、五番車及アンクルの両ホゾに受石を有して居るのである。
・・・ | 天真の穴石(2個)、受石(2個)、ダボ石(1個)、爪石左右(2個) | |
・・・ | 7石の他、三番、四番、五番車各上ホゾ穴に1個宛(3個) | |
・・・ | 10石の他、アンクル上下ホゾ穴(2個)、三番、四番、五番車各下ホゾ穴1個宛(3個) | |
・・・ | 15石の他、二番車(中央車)の上ホゾ穴に(1個) | |
・・・ | 16石の他、二番車(中央車)の下ホゾ穴に(1個)、又は五番車の上ホゾに受石(1個) | |
・・・ |
17石の他、香箱真の上下ホゾに1個宛(2個) 又は五番車アンクル両ホゾに受石1個宛(2個) |
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・・・ | 15石の他、一番車、二番車の上下両ホゾに穴石(4個)及び五番車アンクルの上下両ホゾに受石(4個) |
整動機の種別とは、 アンクル式又はシリンダー式で、其他クロノメータ、デュープレックス式(二聯鼠歯ガンギ式)等も極く稀にるあるが、 之等は諸子の一代の中に一個来るか来ないかと云ふ位のもので、殆ど全部は、アンクルとシリンダーの二種である。
修理料金額は、分解掃除・注油・及其他修理取替料等、全部の合算額である。 日付は受持った年月日、仕上予定期日とは、何日迄に仕上げて置くから、其日には受取りに来ても宜しいと云ふ其の期日、 客の住所氏名とは読んで字の如くである。
最終受取期日とは、仕上予定日より向ふ三ヶ月間或いは六ヶ月等、期間は各自の任意でよいが、 兎も角或る期間内に受取りに来なければ、其の時計は勝手に処分しても客の方では不服を云はないと云ふ取極めの期日である。 之は必ず極めて置かねば、呑気な先生になると一ヶ年も二ヵ年も平気で取りに来なかったり、 又は高い修理料を出して受取っても引き合わないと云ふ気になって、何日迄も取りに来ないと云ふ厄介者も往々あって、 時計の保存に非常に困るからである。 塵埃が入らない様、保管せねばならず、又一ヶ年以上も経てば、油の引直し、或は掃除の仕直しをやらねばならず、 さりとて二回の注油料を請求する訳にも行かず、甚だ迷惑であるから、必ず最終受取日は極めて置く方が宜しい。
控帳の記帳法
之にも、預り證同様に記載するのであるが、夫れ以外に修理箇所、取替部分等も明記し、 料金等も各部分品に対する内訳を記載して置くのである。
エボの記載方
以上の記帳が済んだら、エボに氏名其他必要なる記入をなし、時計の銑に結びつけて置かなければならない。
此のエボは土佐半紙の如き、強靭の性質を有する紙がいいので、之を紙捻を撚る時の様に切って、
全長の約三分の一位紙捻となし、残りの三分の二に記載して、之を紙捻の分にて結び付ける。
記載項目は、住所氏名・料金合計額・修理取替部分品名並部分品に対する料金内訳・仕上予定日・受付月日等である。
而して仕上げたる後、時間の遅速を試す時には、エボの裏面を利用して記入して宜しい。
エボ記載方の一例を挙ぐれば次の通りである。
何町(何村)何番地何某様 修理料金金三円五拾銭也、 内訳、分解掃除注油壱円、ヒゲ取替壱円五拾銭、全舞取替壱円
出典 時計並蓄音機学理技術講義録 大阪時計学院
(大正時代)