11. シュヴァルツヴァルトの時計行商人の木彫人形
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シュヴァルツヴァルトとカッコー時計
ドイツ西南部、西はフランス南はスイスに接する広大な針葉樹林の森が黒森地方=Schwarzwaldシュヴァルツヴァルト(BLACKFOREST) と呼ばれる丘陵地帯です。 古くからこの森林資源を生かした家具や人形つくりなどが農民の副業として盛んでしたが17世紀中頃より長い冬の副業として家内工業的な時計産業が現れました。 やがて18世紀の中頃にアントン・ケトラー(Franz Anton Ketter)によってカッコー時計が発明され、 これらの小型の重錘引き時計は地元の行商人の背中に載ってヨーロッパ中を旅しました。 これらの時計は殆どの部品が木製で18世紀中頃には真鍮の歯車が使われ始めましたが真鍮の受板は19世紀まで使われませんでした。
シュヴァルツヴァルトはやがてドイツ時計産業の中心地として発展して19世紀初期にはキンツレ、ユンハンスなどが創業して、 アメリカンシステムと呼ばれる量産システムを導入して家内工業から立派なドイツ時計産業へと変貌する礎を作りました。
アンリ社の木彫人形
北イタリア、ドロミテアルプスに囲まれたサンタ・クリスティ−ナで木彫り人形は18世紀の初期に始まり、 はじめは宗教的な像が作られていました。 この厳しい自然の中で羊飼いの手仕事として始まった木彫工芸は長い歴史の中でアントン・リフェ−サーの名前を取った「アンリ社」が地元の工芸家をまとめて1912年に設立されました。 厳選された素材を熟練した彫刻家達が何十もの工程をそれぞれの分業によって彫刻するのが特徴で、 これは一人で仕上げると作り手によって表情が変る事を防ぐ為です。 小さなものはアルプス楓、大きいものは菩提樹の木が使われています。 彫り上がった作品は専門の彩色家(主に女性)によって独特の技法で彩色されます。 木に彩色したと思えない透明感が有って美しく、陶磁器のような質感が年を経つほどにつやが出で魅力的です。 やはり宗教的な作品からスタートしたアンリ社ですが現在では人形から額、動物、人気絵本作家シリーズなど多種多様な作品を作り出しています。その高い品質と技術、デザインで世界中から高い評価を受けています。 この時計行商人の彫刻人形も大変リアルな質感に溢れています! 「どっこいしょ・・・!」・・なんて切り株に腰掛ける様が聞こえてきそうです。(笑)傑作!!
時計行商人の型絵染
昭和59年に堀田時計店から記念出版されたオリジナル型絵染作品、キャプションには次のように有ります。
型絵染 神崎温順画伯作 シュヴァルツヴァルトの時計行商人
17世紀の後半に西独南部のブラックフォレストで作られたクロックは時計行商人によって欧州各地に広められた。 後の世にシュヴァルツヴァルトの時計行商人西暦1685と銘されて一刀彫りによる見事な木彫人形が今なお作られています。 この姿を型絵染界の新進 神崎温順画伯は日本古来の技法を充分に生かし芸術味豊かな型絵染によって当時の時計行商人を再現されました。 神崎画伯の最近の作品は火焔の譜・波涛の譜・風の譜・時の譜などを相次いで発表し現在は霊跡の譜を製作中で有ります。
昭和59年4月29日叙勲記念
株式会社 堀田時計店 取締役社長 堀田 両平
型絵染に興味を持たれた方は、神崎画伯の作品を型絵染本にした 「時と人形と」の紹介ページも是非御覧ください。