5. YAMASHITA 標準時計
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メーカー | 製造年代 | 大きさ | 仕様・備考 |
---|---|---|---|
株式会社 新陽舎(東京都武蔵野市境 895番地) | 昭和29年 | 全高44cm、幅23p、アルミ6.5吋銀色ペイント文字板 | 接点式、電池は平角型5号か6号、報時機能付き |
今まで見たことのない時計だし、ジャンクなので部品が揃っているかもわからないのでゴミかも・・・、 でもなんか凄そうで気になる〜って心の中で葛藤がありましたが、 たぶんなんとかなる!という謎の直感が勝って入手しました。
国立天文台のアーカイブ新聞(第260号)に以下のような記述があります。
通称「山下時計」
東京天文台の電気技術者であった山下氏が戦後に天文台を退職した後に武蔵境に時計工場を建てて 電池を用いた振子時計を作り始めたもので「山下時計」と呼ばれている。 山下時計は戦後、長い期間、天文観測の恒星時保持を担っており、 可搬の水晶時計、原子時計が出現するまで長い期間この電磁振り子時計が天文時計として使われた。 昭和50年代頃までは東京天文台のどこのドームにもあって通常は標準時計と恒星時時計を並べて使った。
機械には報時機能もある
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仕組みとしては、 コイルを巻いた電磁石を振り子の接点によりON/OFFすることで振り玉の下の鉄芯を振っています。 時刻を正確に維持・管理する保時の機能(時計としての機能)、また秒・分などの信号を外部へ出力するための報時機能ともに すべて接点式でトランジスターはありません。 振り竿及び鉄芯と振り玉を合わせた総重量は、およそ1,053グラムあります。 遅れ進みの調整はコイルに付加されたレバー(写真7)で電流を加減する方法と振り玉の上下とでできるようになっています。
専門的には、ルロア(Leroy)型電磁式秒振子時計と呼ばれていたタイプで、 天文台ではリーフラー(Riefler)振子時計に同期させて分秒信号を外部に伝える報時に使っていたようです。 また、気象庁では昭和24(1949)年より地震時刻記録用の時計を精工舎製大型柱時計からにルロア型電接時計に変更したと記録があり、 山下時計は地震記録分野でも使われていた可能性があります。
文字板を外した状態で約一週間にわたりいじくりまわしての印象は、兎に角堅牢に作ってあります。 そして機能美というんでしょうか。 余分な装飾のない機能に特化した美しさで、時代はちょっと違いますが機械の美しさの雰囲気は精工舎で例えると一週間巻鎖引標準時計です。 接点式でもここまでしっかり作ればウィークポイントになりそうな接点の不良を心配することはなさそうだとも思いました。 輪列等については、分解して点検しましたが構成部品の摩耗はほとんど認められませんでした。 地板は厚みが2.5mmありますし、そもそもゼンマイ駆動と違って輪列のザラ回しに負荷が少ないことからガタはまったくでていません。 気になったのは振り竿に取り付けられた送り爪に若干の摩耗があるくらいですが、これもまだまだそのままで大丈夫な感じです。
精度についてですが、 ジャンクを組立て通電したところ爪送りがうまくいかず、振り幅が強めになると一度に2秒送ってしまったりして一日に90分も進む状況でした。 振りペラ(写真10)の歪みを修正したり、諸々点検・調整して、特別な知識を持たない私がなんとなくで設定した状態で日差3秒程度となっています。 振り子が重たいためか動作開始直後は精度が安定しないのでその点に注意して利用が必要な気がします。
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販売は受注生産で特に報時機能は要件に合わせてカスタマイズして納品していたようです。 従って一般の時計と違って販売経路が時計店経由ではなかったと思われますので 製品の情報が時計誌に取り上げられたり広告をうつこともなく残っている情報がとても少ないのですが、 製造していた時期は、天文関係の会報に掲載された当時の広告から昭和26年から昭和30年までは確認できています。 この時代は、政府の復興国土計画のもと時計製造も農村に工場を設置して農村の工業化を促進せんとす・・・という感じで、 地方の人材を育成して時計を作ろうと試行錯誤していた頃です。 時計産業全体としては安価な時計を作りつつ物資や技術者の減少で低下した品質の改善を図っていた時期です。 そんな中、デント、リーフラー、ナルダンなどのクロノメーターに並ぶような精密な電磁振り子時計が 時計メーカーでも電気メーカーでもない天文技術者の手によってその後の 市販品に先駆けて、国産化されていたことを考えると 開発者である山下さんの並々ならぬ思いを感じざるを得ません。
なお、この時計は昭和29年に日本天文研究会から某天文学者へ還暦祝いとして贈られた品です。 大理石のベースに取り付けられた時計全体を覆うガラスカバーが付属しています。 機械の刻印は、山下時計の商標の菱形にYのほか、27 n n (nnは数字)とシリアルナンバーがあります。 昭和26年に製品が完成して販売されたいたことを考えると最初の27は、昭和27年の刻印のような気がします。 電池は残っていた真鍮製ホルダーのサイズと形状から、平角型5号か6号(どちらも3V)が使われていたと推測しました。 平角型は既に生産中止になっていますので写真の黒く見える部分は市販の単一(1.5V)を直列にセットできる電池ボックス(300円也)を追加したものです。
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掛金で簡単に壁にかけることができなくて、L字アングルのようなものにガッツリ固定する必要があります。 すぐには出来そうにないのでレベラーをつけた台座をこしらえてなんとかしようと思います。