2. 万年時計小史
- 寛政11年(1799年)福岡県久留米市に生まれ、弘化4年(1847年)京都の陰陽総司土御門家に入門し、天文学を修め、 嵯峨御所大覚寺官より職人の最高位である、近江大掾の印加を受ける。久重49歳
- 京都でからくり細工の機巧堂を設け種々の発明品の考案販売の傍ら嘉永4年(1851年)に万年時計を完成する。久重53歳
- 安政元年(1854年)佐賀藩に聘せられ、佐賀に移住、万年時計も佐賀へ運ばれる。 元治元年久留米藩に聘せられて久留米に移住(時計も同様)
- 明治6年上京、8年(1875年)東京市京橋区南金9番地に田中製作所工場を作る。(東芝の前身) 万年時計は以来大正9年までここに在置さる。
- 明治10年(1877年)東京に於いて第一回内国勧業博覧会が開かれ万年時計は出品される。 くしくも反対勢力の為に久重が作った天動説の佐田介石考案の視実等象儀も同じ博覧会に展示されている (後述の引札を参照)
- 明治14年(1881年)田中久重83歳にて没す、二代久重時計を継承する。
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明治17年(1884年)永らく修理しなかった万年時計を二代久重の依頼により、製作者初代久重の門弟にして、
時計構造に精通せる田中精助が担当して分解修理をする。
この際銀座一丁目近常時計店(新居常七)が見本として所有せる真鍮製のゼンマイの良品ありしを譲り受け、
ゼンマイ全部を取り換える。修理なりて運行する。
その後上部の外装を一部美化し、下部六角台の側面を美麗なる七宝装飾に改装する。 また漆塗りの木製ケース及び紫檀製の置台を作る。 - 明治38年(1905年)二代田中久重没し、三代久重時計を継承する。
- 大正9年(1920年)6月10日我国初めての時の記念日にあたり、 お茶の水の東京教育博物館にて開かれた 「時の展覧会」に時計は出品される 。
- 以降、三代久重は万年時計を上野の帝室博物館に寄託展示する。 時計はその後同館(後に国立科学博物館)に陳列保管される。
- 大正10年(1921年)大分市に於ける九州沖縄県連合共進会に際し、 社団法人帝国発明協会から万年時計は発明品の特等賞として表彰される。
- 大正12年(1923年)関東大震災に遭いたるも、時計は帝室博物館にあって無事異常なきを得た。
- 昭和6年(1931年)東京科学博物館竣工にともない万年時計は博物館の懇請により帝室博物館より東京科学博物館に移される。 その後万年時計は多くの時計コレクションとともに科学博物館の陳列室を飾ることになる。
- 昭和20年(1945年)太平洋戦争において東京空襲を受け上野一帯も焦土と化したが、 時計は東京科学博物館の地下室に保管され災害を免れる。
- 昭和23年(1948年)より日本時計学会山口隆二副会長により万年時計が世界的価値のあるものとして海外の論文に発表され評価を得る。
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昭和24年(1949年)
万年時計は明治17年の修理以来、長らくそのままに放置され機械も動かぬ状態であったが、
日本時計学会の名人時計師、理事伊佐田杉次郎、岩上与四郎、平井幸野之進、一橋大 山口隆二、科学博物館 朝比奈博士などにより
分解、調査研究がなされた
。
従来のゼンマイは亀裂が生じていたので東洋時計の協力により同社にて材料分析調査の上、従来と同質のものを製作してもらい、 これと取り換え組み立てて全機構運行するに至る。 これ万年時計製作後二度目の大修理で有る。 - 昭和26年(1951年) その後初代田中久重が制作した、須弥山儀や視実等象儀などが発見され視実等象儀は科学博物館にその後寄託され出品陳列されている。
- 昭和28年(1953年) 三代目田中久重は東京芝浦電気株式会社の創設者が初代久重ということで顕彰されたのを受けて万年時計を東京芝浦電気に寄贈する。
- 昭和30年(1955年) 時の記念日に科学博物館で万年時計の公開分解手入れを施工。
- 平成16年(2004年) 国立科学博物館と東芝で、万年時計の調査・復元・複製プロジェクト発足、翌年複製品を完成させ、起動式を行う。 その模様が、NHK総合テレビ「NHKスペシャル」で放送され、グラフィック映像で再現された万年時計の仕組みが分かり易く、好評を博す。
- 平成18年(2006年) 国の重要文化財に指定される。現在は国立科学博物館にて常設展示されている。
参考文献 : 萬年時計の歴史 三代田中久重著、1960年
大正9年「時の展覧会」に出品された万年時計
興味深いのは、写真下の説明文です。
台の部分は、ブリキ製であったため腐蝕したから、濤川 惣助が七宝で補修した・・・と読めます。 濤川 惣助(なみかわ そうすけ 1847年〜1910年)は、無線七宝という技術を確立し万国博覧会で幾度も受賞、日本の七宝焼の技術力の高さを世界に示した人物です。 現在も迎賓館に作品群が飾られています。
戦前の科学博物館 時計陳列室
右に萬年時計や太鼓時計、左に尺時計、枕時計が見える。
昭和24年の分解、調査研究の様子
参考文献 : 時計とレンズ、昭和26年