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掛置時計の基礎知識

7. ケース(側)の手入れ・其の他

ケースは、布片に少量の菜油を附したるもので、良く摩擦したら綺麗になる。

硝子は、少量の重曹を布片又は紙片に附して磨く。 下窓の木製の硝子縁の外れかかったのや、外れたのはニカワで付ける。 其の他の縁や、側の外れかかったのや、外れたのは、竹針又は釘で上手に止めなければならない。 側の甚敷く穢くなったのや剥げたの等は、ニス又はエナメル等で塗り直したら新しくなる。 之を塗った時には、之が乾燥する迄、一二日間、埃のせない戸棚に入れ戸を閉めて置く。

文字板の上の硝子縁は、掛時計の分は大抵真鍮製であって、之に金ニスを塗ってある。 之を塗り直すには、ペーパーで錆が少しも残らないように、綺麗に磨く。 磨き方は指にてペーパーを押へ、常に縁を平等に手を動かして磨く。 斜めに動かしたり、横に動かしたりしたら、カスリ傷が見えて仕上がりが不体裁となる。 そして磨いた所には、決して指を触れてはならない。指を触れたら、指紋が付いて穢くなる。 磨き上げたら、之を布片又は紙片で綺麗に拭き取り、之に金ニスを引く。 金ニスも引力があって、勝手に塗付けてはいけない。 先ず綿を適当の大きさに摘切って、之に金ニスの少量を含ませる。 それは縁金の幅一杯にかかる位の広さに、含ませて置かねばならない。 それから磨いた縁金の蝶番を左手に支持し、縁金の反対の側を、机上か又は膝の上に支持する。 そして右手で金ニスを含ませたる綿を摘み、蝶番の附近で縁金を蔽ひ、之を前方より始めて、ずーっと一周せしむる。 其の速力は、速い所もあれば遅い所もあると云ふ様では、斑が出来穢くなっていけないから、必ず同一の速さで、一周せしめる。 それから一回引いた所に又引いたら、それこそ穢くなって、又磨き直しからやらねばならないから、 必ず一回で万遍なく全部に金ニスが附着する様引く。 そして之が乾く迄は、決して指を触れてはいけない。 金ニスを引き終わったら、之を火鉢の火に翳し、一寸乾燥せしめた方が宜しい。

蝶番や、縁金の硝子押等が離れた場合には、ハンダ付法を応用して、(ろう)付を行ふ。

文字板の穢くなったのは、新しい紙エトウの張替を行ふか、又は新品の塗エトウと取替へる。 紙エトウの張替を行った方が安価であって、之を希望する人が多数である。 新品の塗エトウは、其の縁金も付いて居るから、其の儘取り付けたらいい。 紙エトウの張替は一寸手間数がかかる。 之を行ふには、先ず縁金と文字板との分離を行はねばならない。 之は其の裏面の数箇所をハンダで付けてあるから、其のハンダを付けてある上を、縁金と文字板が分離する様、 小刀其の他の刃物で切断する。 之を切断する道具としては、全舞の外端の輪の付いた方から二寸位に直角に切断し、此の切断面を砥いで使用したら、 小刀を使用するより便利であって、尚ほ之は振竿を外す際、使用するにも便利である。 振竿挟の割目に、此の刃先を一寸入れたら。それでいいのである。

そして、ハンダ付してある所を、全部切断したら、次に文字板内にある小さい輪金と、ハトメとを取外す。 そして、エトウを適当に其の外端を切捨てて、之を糊で貼り付ける。糊は文字板の方に斑がない様に、 万遍なく塗り付けて置かなければならない。 そして貼り付けるには、直接手を触れない様、紙を当てて其の上より押さへ付ける。 之は汚れるのを防ぐ為である。 そして、釼軸と鍵真との穴の所を、良く切れる小刀で切り取る。 慣れない中は貼り付けたるエトウが、所々膨れ出る様になる事があるが、之は糊の付け方に不同があるか又は糊が薄過ぎる為である。 之が乾いたら、ハトメや小金輪を取付けて、縁金に嵌めハンダ付を行ふ。 此の際、位置が違ったらいけないから、始め之を分離する前に、縁金と文字板との両方に一寸印を付けて置く。 此の文字板の縁金は、平常は磨かなくともいいが、エトウを張替へる際には磨いて金ニスを塗るが良い。

短釼が緩いのは、其の足の一端を内方に少し曲げ込んだら宜しい。 そして、短釼も長釼もグラ付かない様、キチット取付けねばならない。 長釼はネジで止めるか、又は座金を置いて栓で止めるかしてあるから、ネジだったら之を廻して締めたらよし、 座金の分だったら、座金の中央が高くなる様に曲げるか、又は二枚或は三枚と重ねるかして、栓を入れたら良く締まる。 栓は其の先端を斜めに削いで置かねば入れ悪い。

釼軸と鍵真とは、文字板の各夫々の穴の中央に位置する様、文字板の取付けに注意する。

愈々全部出来上がったら、全舞を九合目位に巻いて時間の遅速を試し、之を正確に合わせてから渡すのである。

出典 時計並蓄音機学理技術講義録 大阪時計学院
(大正時代の発行物)

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