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掛置時計の基礎知識

5. 掛時計の分解・検査

分解

掛置時計の修理を依頼されたら、先ず第一にケースの検査を行ひ、次に釼と文字板とを取外し、機械をケースより取出す。 之等の機械は分解せなくとも、大体の故障は検査が出来るから、先ず分解前に大体の検査を行って宜しい。

最初に全舞の検査を行ふ。之は鍵を嵌めて全舞を巻けば、切れたり外れたりしたのは直ぐに発見される。 其の他の箇所は大体を注視したらいいが、主としてホゾ穴が摩滅しては居ないか、歯車が振れては居ないかを調べ、 之等の故障があったら、其の箇所に一寸印を撞けて置く。 それから、分解する前に必ず全舞を戻すことを忘れてはならない。 若しも之を忘れて分解を行ったら、押板を取離すや否や一杯に巻かれて居る全舞は、一時に強大なる力を以て戻る際に、 歯車やカナ、軸真其の他の部分品を、折ったり曲げたりすると同時に蹴飛ばすのである。 其の際手指等に負傷することもあるから、之は第一に念頭に於いて居なければならない。

全舞を戻すには、鍵真に鍵を入れて全舞戻を鍵に嵌め込み、次にコハゼは其の儘として刎のみを外す。 それから左手で機械が動かない様に確り押へ付けて置いて、右手で全舞戻しを握り、ネジをかける様に少し廻せば、 コハゼが万力車より外れるから、其時に注意して少し宛握り方を緩むれば、全舞は少し宛戻るから、 終ひに弾力が少なくなった時には急に緩めても構わないが、弾力の強い間は決して急に緩めてはならない。 急に緩めたら歯車やカナ等に損傷を来たす。之は時間の方からでも、時間打の方からでも構わない。 両方共同様の方法で全舞を戻す。

次に玉振だったら振竿を外す。之は真鍮栓を二つに割り其の中に挟みつけてあるから、其の割目を少しコヂ開けたら直ぐに取れる。 それからアンクルを取る。

天府振だったら、ヒゲ止の栓を抜いて、ヒゲ止からヒゲを外し、次に緩急針ヒゲ挟からヒゲを外す。 天府押が押板の上に別に取り付けられたものは、天府押を外して天府も取出すのであるが、 押板が天府押となって居るものは、下部の天府受金を少し廻して、天府が外れる程度に止め置き、天府も取出すのであるが、 此際ヒゲを縺らさない様注意を要する。

次に柱と押板とを止めてあるナットを取去って押板を取除く。 次に熟練してからだったら、一番車と全舞とを取除けてから、地板を引っ繰り返したら、部分品は全部抜け去るのであるが、 初学者は組立てに困ることがあるから、先ず諸車・部分品等の位置を注視して、どの車はどこにあると云ふことを覚える様に努める。 それから時間の方と、時間打の方と中央の諸車とを区別して、右と左と中央とに順々に並べて置く。 そしたら、如何に初学者でも、組立てに困ると云ふことはない。

検査

次に部分品を一個宛手に取って、精密検査を行ふ。 検査の方法は、懐中時計に準じて行ったらいいから、其の説明は省略する。 修理の方法も同様、懐中に準じてやったらいいのだから、特種の異なった点に就いてのみ説明をなす。

針カナ即ち提灯カナは、掛置時計に特種のものである。之が曲がって居る時には、小さいネジ廻しでゴヂて直すことも出来るが、 この際隣のカナを曲げない様注意を要する。 それで真直に伸ばない時には、抜出して良く敲き伸ばす。尚ほいけない場合は、之と同一の大きさのスチールか、 又は針かを適当の長さに切って打込み、上部の穴の周円を先端の尖ったタガネにてカナクリ、針カナが抜出ない様にして置く。 故に針カナの長さは、上部の穴より少しは沈む位でなければならない。

又針カナの一方が甚敷く摺れて居るときには、之を反対に向け直し、確り動かない様に締め付けるか、 又は抜出して反対に打ち込むかしても宜しいが、併し取替へた方がよい。 それから、時間打の挺軸の針金の発條が短くなったのは、必ず新しい針金と取替へて置く。 此巻方は重ならない様に、密着せしめて巻き付け、之が緩まぬ様に其の先端を、挺に巻き付けて置かねば、 組立てたり又は柱に締付けたりする時に具合が悪いのである。

風切車が軸に対して緩いのは、之を軸より取外し其の中央を一方に押出して嵌め直したら宜しい。 下駄歯が窪む様に摺れて居るのは取替へるがよい。 已むを得ざる場合には、油砥石か鑢等で真直に摺って窪みを取る。

天府振の天真のホゾは、懐中のホゾとは異なり円錐形に尖って居て、大抵は其の先端が潰れて居るから、 之を充分鋭く針先の様に尖らかさねばならない。 天真の受金も円錐形に窪って居るのだから、此の円錐形よりもホゾの円錐形は、より鋭角をなす円錐形でなければならない。 それで天真のホゾは、急傾斜に砥いではいけない。成可く緩傾斜に、そして角が立たない様に正しき円錐形をなす様砥がねばならない。

之を砥ぐには、ヒゲのみを取除き、天府を付したる儘四割に挟んで、右手にて同一速力を以て廻転せしめつつ、 左手に持った油砥石に油を付けて砥ぐ。 必ず天真の廻転は同一速力で、正しく一廻転でなければ、真の円錐形をなさない。 而して一方のホゾが砥げたら、反対に取替へて四割に挟み直ほし、又一方も同様に砥ぐ。 此の砥方が悪ければ、天府の廻転が鈍る。

それから全舞の内側の引掛穴が、鍵真にかからずして外れる時には、引掛穴が完全であって、かからないのであるか、 又は穴の一部の一端が切れて居て、かからないのであるかを調べ、若し切れて居たら、之が修理は絶対に出来ないから、 取替へなければならないが、完全である場合に、かからないのであれば、大抵の場合広がり過ぎてかからないのであるから、 鍵真にピッタリ嵌まる様に、ヤットコの先の薄いのを利用して、押曲げる、即ち窄めたら宜しい。

それから、全舞の外端即ち柱に嵌まって居る輪が切れて居る場合には、新たに其の外端で輪を作る。 即ち輪の附近より切捨て、其の先端を綺麗に角が取れる様に鑢で仕上げ、次に之を真赤になる様に焼いて、 赤い内に曲げて輪を作り、輪より約一二分位の所に穴を穿ち、鉄線にて止め、鉄線の両端を敲き潰しカナクル。

各種の挺が折れた時は、同一の大きさの鉄線を固く打込んで作る。 全部の検査や修理が済んだら今度は掃除に移る。

出典 時計並蓄音機学理技術講義録 大阪時計学院
(大正時代の発行物)

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