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材料より観たる時計

7. 頁28〜33

八日捲ウオルサム標準時計

八日捲ウオルサム標準時計

此の時計の外函の内部は特殊の構造により如何なる位置の変化にも応じて常に器械を絶対的水平に保たしめる様になって居りますから 航海用として多くの船舶に使用せられて居ります。 又中央気象台、各測候所、鉄道省、陸海軍省等に於いても定規時計として使用されて居ります。 其他店頭に之を備え以て顧客の標準時を知るに便すると同時に店頭装飾を兼ねしむる店舗も少なくはありません。

〔28頁〕


文字板と時計側に就いて

前掲の各種の時計は権威あるウオルサム製品の粋を集めたもので、 殊に懐中時計の文字板とケース(時計側)は何れも目下欧米に於いて最も流行を極める最新なる形であります。 我が国に於いては文字板は従来エナメル(瀬戸支)が最も一般的に用いられて居りますが、 国を異するに従い流行と趣味とを異にし様々な支やケースが用いられて居ります。 金属支は近来日本でも頓に流行の度を増して来ましたが、 其性質上極めて堅牢なる上に其優雅な色調が何れのケースにも能く調和して見るからに清楚な気品に富んで居ります。 殊に銀色浮出金文字支に至っては上品な古典的雅致と現代的清新味を併せ備えた何とも云えぬ美しい文字板で、 真個近代芸術の生んだ一個の美術品であります。 然し美しい之等の支や十四金及び金張のケースは関税其の他の関係で現在日本市場には余り見られません。

元来ウオルサム時計会社では専ら時計器械の製作に従事し、之を嵌入すべきケースは総て米国に於ける一流時計側製造会社の製品を用いて居るのであります。 然しそれらは必ず本社工場実験室に於いて一々厳密なる検査を経たものでありますから、 器械の精巧と相俟って完全無欠なることを現に保証すると同時に特に御了解を願っておきます。

〔29頁〕


ぜんまい

ぜんまい

〔30頁〕


ぜんまい(MAIN SPRING)

ぜんまいは時計の原動力でありまして、特別に鍛錬した長さ約二十吋許りの鋼板から成り器械の地板とうけ板の間に挿って居る香函の中に捲き込んであります。

その強さと云い、巾、厚さと云い夫々の時計に申分なく適合するように出来て居ります。 ぜんまいは温度や張力の強弱に依って変化し易いものでありまして、一吋の千分の二位の微細な厚さの違いでも、 又焼入や焼戻法の僅かな不同でも、時計の示す時間には大変に影響して来るものであります。

さればぜんまいの製造には非常に複雑な問題があり、非常に進歩した方法を要しますから、 之をためし得る時計製造工場は、世界を通じて極めて少数に過ぎませぬ。 ウオルサム時計会社では一ヶ年間に十四噸(トン)のぜんまいを製造し、世界に於ける最大のぜんまい工場でもあります。 産額に於いて世界に冠たることは即ち優秀なることを意味します。 幾多の年月に亘り、多  【→ 32頁に続く】

〔31頁〕


額の費用を投じたる試験、世界未知の機械や方法やは之れ即ち其製出する時計を優秀ならしめた理由として何人も否み得ざる所であります。 而して此の優秀は実に巧妙なる審査に依って更に維持されて行くのであります。

今其の特殊なる製造の順序を略述すれば最初先ず不同のない別製の鋼鉄を与え、固く鍛錬した鋼鉄の香函の中へ捲き込み、 時計の中に収めるのであります。 この香函は、ウオルサムの発案であって、万一ぜんまいが切断したとしても、その破片はこの香函内に限られ、 器械の他の部には些しも損傷を及ぼしません。之れは他の模倣を許さぬウオルサム、スタンダードの一であります。

斯して製出されたぜんまいを欧州製のそれに比較すれば、その優秀なる点を直ぐに知ることが出来ます。 欧州製は長い不同のない均一な特殊鋼鉄から切り取らずに、先ず短い片に切り裂き、ぜんまいの儘で焼入焼戻せずに片のままで鍛錬します。 換言すれば欧州製のぜんまいは方々からの持ち寄りであるため、其の硬度なども一々異なって居ります。 従って時計も不安な而して不確実なものとなるを免れません。是れ欧州製時計の不正  【→ 35頁に続く】

〔32頁〕


ぜんまい

十六「サイズ」リバーサイド十九石入

器械各部分品(実物写真)

〔33頁〕


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