6. スリゲルの語源
掛時計にスリゲルという魅力的な名前の付いた一群が有ります。 分銅引きスリゲルや精工舎スリゲルのコーナーでも一部ご紹介しましたが、 まずスリゲルと言うとユンハンスの掛時計を思い浮かべる方も多いと思います。 雰囲気としては分かっていても実際、語源を定義ずけると・・なかなか難しい言葉でもあります。 ではスリゲルとは語源はいったい何で、何語なのでしょう?
一つ確かなのは、明治以降、外国時計が日本に輸入され始めてから、何らかの外国語が転訛して出来た日本語で有るということです。 (外国には有りません) ユンハンスの掛時計のように三方にガラスが填め込められた細長い長方形のケースに入った時計の事を一般的にスリゲル時計と呼んでいるようです。 初期においてはスリギル、スイキル、スリンゲルなどと色々な名前が付いていたようですがやがて東日本ではスリゲル、 名古屋以西ではスリゲールと呼び方も落ち着いて来ます。(例外もありますがカタログにはそう記されたものが多い)
語源は不明で、現在は外観説と機能説(打ち方の付いた時計という意味)が有ります。
明治初期から戦後もしばらく使われていて高級時計の代名詞のように取り扱われていた息の長い名前でした。
いずれ、分銅引きスリゲルでお話ししたように、ビエンナレギュレーターと呼ばれた時計やその小型普及版(ゼンマイ式)として登場した量産時計がルーツです。
このスタイルをドイツから機械だけ輸入して国内で日本の家屋に合うようなデザインでケースを作り、
組み立てられて売られたものが日本で普及したスリゲルです。
直輸入完成品も一部有ったのかも知れませんが、多くは日本で組み立てられたもので和洋折衷時計ともいえるものです。
その後このケースデザインを踏襲した国産スリゲルも現れてきます。
洋時計の日本化というデザインの流れを検証できる貴重な時計でも有ります。
それにしてもユンハンスなどはどこの時計商がこのような組み立てをやったのか良くわかっていません。 何か情報をお持ちのかたはご提供ください。
幸い少ないながらカタログも残っていますのでそれに沿って当時の実態を見ていきましょう。
7. 黒漆塗瓢形(バイオリン型)
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メーカー | 製造年代 | 大きさ | 仕様・備考 |
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ユンハンス (ドイツ) |
明治期 |
全高87cm 琺瑯文字板5吋 |
黒漆塗瓢形、 ユンハンスB機械 |
ユンハンスの代表と言えばこれでしょうか?
漆黒の優美なボディーに琺瑯の文字板がよく似合うグッドデザインですがこれも日本人のデザインでは有りません。
ビエンナレギュレーターにはこれに似た曲線ボディーをサーペンタイン形と呼んでいて、その小型版、
ドイツ製の小型レギュレーターにこれと同様なスタイルが有りますのでそれのコピーです。
バイオリン型というのは日本的愛称で傑作ですが、戦後誰かが言いだした呼び名です。
明治のカタログ名は「黒漆瓢形」ひょうたん型ということです。
このサイズで小型バイオリンにある黒柿ケースは見たことないですが褐色漆のケースが有るようです。
機械はユンハンス製B型と呼ばれる2週間巻古いタイプの方で、キャストマウントブラケット、一本掛けと呼ばれるタイプの振り子、
5吋琺瑯文字板。
大変黒漆塗りの状態が良く戸枠の内側にかすかに金彩が残っていますので内側に一周金彩が回っていたようです。 本家よりも日本の漆仕上げが冴えて見えるのは身びいきでしょうか? 3尺スリゲルの原点とも思えるスリムな日本製ケースの代表です。
かすかに残る金彩 |
振子と巻き鍵 |