1. 手書き文字板と印刷文字板
精工舎ボンボンの時代判定基準のひとつに文字板の制作方法が有ります。 「時計閑話」(昭和54年)で平野光雄さんは次のように書いています。
「元服部時計店取締役土方省吾が、同社創業以来の技師長吉川鶴彦にかって聞いた談話によると、 掛時計の文字板は創業時から 明治29年度までは手書き仕上げであり翌30年度にいたって印刷に移行したとのことである。」
手書きの文字板というのは初期の特徴であり、文字書体が分厚く、いかにも手書きらしくぽってりした印象です。
レールを見るとよく分かりますが手書きは枕木(分刻み)が少し短かったり、よれたりしていますが、
印刷は文字の書体やレールも細くすっきりと正確に刻んでいます。
トレードマークは若干手書き文字板の方が大きいようです。
下地の色は手書きはアイボリーがかっていますが、印刷文字板は純白に近くなります。
初期の8吋の文字板枠の幅広のものは文字も小さくなり文字板のレールの外側から外側までの全体幅は15.7cm位です。
(10吋では幅広文字板枠は有りません。)
手書きの末期のもの、明治30年前後の遺品は文字板枠は細くなり、その分文字板も広くなって、
レールからレールまでの幅が17cm位になってきます。
印刷文字板も同様に17cmと大きくなります。
手書きの文字板はその後の印刷文字板に比べると亜鉛版の厚さが厚く、またペイントも厚く丁寧に塗られているようで
ペイントが少し磨り減ってもパラパラと欠けて剥がれ落ちてくる事は少なく、色が薄くなっても仕上げのよさを感じさせます。
その点、印刷文字板は亜鉛版が薄くなり、ペイントもその分薄い仕上げのようで細かい貫入(ヒビ)が入りやすく、
パラパラと剥離、脱落しやすくなってきます。見た目は印刷文字板は綺麗ですが耐久性は初期の文字板に及びません。