1. 歯車をデザインした時計鍔(とけいつば)
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刀の刀装具の中で鍔はわずか10cm内外の薄い金属板の小天地に一つの宇宙が宿ると言われ、これを愛玩、鑑賞する人々には世界的に評価の高いものです。 その鍔のデザインの中に時計鍔と呼ばれる一群が有ります。
江戸期の尾張鍔に属する一派で、尾張徳川家のお抱え時計師だった津田家にかかわるもので、 そのルーツは和時計で有名な知多郡大野で作られた大野鍔と言われ、江戸初期から文化文政期まで名古屋に居住した鍔工の作品と伝えられています。 時計鍔の作風は、鉄地、真丸形、角耳小肉、それに地透かしか小透かしを施した素朴なもので時計師が時計製作のかたわら希望者の注文に応じて作鍔し、 子孫や門人たちもそれに倣った為に時計鍔という一派をなしたものとみられます。
このデザインは時代の人気となりやがて尾張鍔ばかりでなく、赤坂鍔、京透かし越前記内等にも同様なものを見、鋳造鍔にまで有ります。 デザインは和時計の心臓部である歯車をデフォルメしたもので、勝手に大小を付けたり、太陽のコロナの様な火炎模様の変形のものまで時計鍔とされています。
切支丹(キリシタン)鍔ではないかとの指摘も有りましたが、 古い鑑定本(古今和漢 万寶全書 全十三巻ー原版享保三歳、宝暦五歳改正、明和七歳再版)の中の第十三巻中「諸国鍔之作者並びに押形の図」の分類に古鍔が図解してあり、 その中にずばり「とけい」と名前が付いてるのが時計鍔で古い時代から歯車のデザインの時計を意図した鍔で有った事が分かります。 まれに「とけい」とか時計○○と時計師の銘が切って有るものも有ります。
鉄味は古作に比べようも有りませんが、時計(歯車)という斬新な意匠が当時の新奇なものを好む嗜好に受けた事は、手の中に存在感と共に伝わってくるようです。
これは、堀田時計店が昭和40年代に配った現代製です。 堀田時計店(現 - (株)ホッタ)の故堀田両平氏は時計鍔と十二支鍔のコレクターとしても有名ですが、 堀田時計店の記念、販促グッズにちゃんと南部鉄を使った文鎮代わりの時計鍔を作り、傑作置物として人気を博しました。
参考文献 :@ 時計随筆五十人集(時計鍔―稲垣善次)
堀田時計店、再建満十五周年記念、昭和37年刊
A NAWCC131支部、会報「古時計」第89号より
(時計鍔)平成12年
万寶全書
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