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水晶時計

1. 水晶時計の改良に関する研究 昭和27〜28年

「水晶時計の改良に関する研究」

第2巻(昭和27年度) / 第3巻(昭和28年度)
東京工大教授 古賀逸策、東京天文台、他

表紙 縦25cm×横18cm

世界の時計産業をリードした水晶時計の実用化に偉大なる貢献を果たされたた古賀逸策(こがいっさく 明治32(1899)年〜昭和57(1982)年)氏の研究論文を入手したのでご紹介します。

水晶時計(クオーツ時計)の開発に至るまでには長年の歴史がありましたが、 セイコーが最も身近なクオーツ腕時計の開発・製品化に成功したため、その開発に至るストーリーは、以下のようにご理解されている方が多いかと思います。(私もそうでした)

  1. 1880年、フランスのあのキュリー婦人の夫ピエール・キュリーとその兄が天然の水晶を切ってキュリーカット(後にX-板と呼ばれる)の水晶板を作り、 これに圧力を加えると電気が発生することを発見
  2. 翌年、リップマンが、逆に電圧を加えると歪が生じることを実証。これを圧電現象と呼ぶ。
  3. 1922年、アメリカのケイディが水晶振動子を発明。水晶の振動数はいつも一定で高周波振動電流の周波数の標準に使えることが注目されるようになる。
  4. 1927年、アメリカのマリソンが水晶クロックを発明。大きさは一部屋ほどもあったと言われている。
  5. 1958年、精工舎が放送局用水晶時計を商品化。大きさはタンスほど。

古賀氏の研究・発明は、時期的には上記4〜5の間にあります。 それまでの、水晶振動子は気温の変化で振動数が多少変わってしまうため、アメリカでは安定した周波数を得るために水晶振動子を恒温槽に入れて使っており使い勝手の悪いものでした。

古賀氏は種々の角度の振動板を多数製作し、また水晶の各方位の振動周期を数値化するために、 数ヶ月にわたって朝から晩までタイガー計算機を回して「厚み振動の理論」を構築することに成功。 1932(昭和7)年秋には、恒温槽を必要としない水晶振動子 R1 , R2板(米国ベル研究所ではAT,BTと名付けた)を発見し、翌年に実用試験に成功しました。 この水晶振動子 R1板は、それまでのものと比較して温度による周波数の変化が二桁も小さいそうで、 今なお、情報通信産業で使用されている全水晶振動子のほぼ100%を占めているそうです。

古賀氏はさらに、水晶時計の実用化に関してもうひとつ「分周器の発明」という、業績を残しています。 水晶は毎秒何万回という非常に速い振動をしますが、分周器は歯車と同じように振動数を何分の一かに落としていくもので、 時計に必要な毎秒一回の振動を得ることが出来るものです。この分周器の発明と原理の発展は水晶振動子よりも歴史に残る成果だとの評価もあります。

参考文献 東京工大クロニクル No.348

報告 第2巻 1953年4月

  1. 水晶時計 KQ4 の運転成績
  2. 水晶時計用振動子の弾性に関する研究
  3. 水晶時計用振動子の近接周波数に関する研究
  4. 水晶時計の温度特性改善に関する研究
  5. 米国水晶時計の精度
  6. 水晶時計歩度の精密決定
  7. KQ4 水晶時計の運行特性について
  8. 水晶時計の恒温箱
  9. 水晶時計用光学機械に関する研究

報告 第3巻 1954年3月

  1. 水晶の断熱弾性定数の温度特性とR1板、R2板の周波数温度特性
  2. 水晶時計の精度について
  3. 水晶時計秒信号のバラツキについて
  4. 水晶時計の精密比較、特に無線報時の場合
  5. 水晶時計 KQ4 の運行について
  6. 水晶時計用振動子
  7. 水晶時計用振動子の保持
  8. 電源電圧の変動に対して周波数の安定な発信器
  9. 水晶時計用発信器の温度特性改善
  10. 水晶時計用恒温槽
  11. 水晶時計用秒信号発生装置の改良
  12. 水晶時計用電源
  13. 水晶時計 KQ5 の運転成績

昭和28年度における「水晶時計の改良に関する研究」
 代表者 古賀逸策

水晶時計の改良に関する研究は昭和28年度末で満3年になる。 本研究の目的は、研究の当初の報告に於いても述べた様に、水晶時計の歩度の変動を一日当り2ミリ秒以内に向上するに在る。 斯様に僅かな変動に迄改良する必要が起こった事情は、今次大戦後、世界各国の無線通信が極度に増加したのに応え、電波周波数を安定にすると共に、 その絶対値を正確に維持する必要が起こった事に出発している。 即ち電波周波数を規制する為には、それに値する確度の高い周波数測定器が必要であり、更にその測定器の拠り所となるべき標準周波数が必要になる。 所がその標準周波数は現在米国及び英国から標準電波として発射されているが、更にもう一つ東半球から発射することが要望されて居る。 我国としてはこの標準電波の発射を担当する事は、我国の無線通信事業上極めて有利であるが、我国からの発射を永続的に認めさせるには、 その周波数の変動を国際無線通信諮問委員会の勧告する2×10のマイナス8乗以内に確実におさめる事が出来なければならない。 それには水晶時計の確度を従来のものより格段に高いものにする必要がある。 斯様な事情で吾々は三年間の研究を続けた結果、幸ひにして所期の目標に到達し得たことは誠に喜びにたえない。

昭和28年度の主な仕事は昨年度迄の様々な研究の仕上げとも云ふべきものが多かった。 即ち、昨年は水晶振動子の弾性振動に関して明らかにし得た点が少なくなかったのみならず、 水晶の弾性定数をも精密に決定し得たのに引き続き今年度は更に弾性定数の温度系数をも精密に決定する事を得、その結果あらゆる方位の振動子に対し、 その周波数温度係数が一々実測する迄もなく計算で計定し得る様になった。 又水晶時計の歩度を観測する方法、結果の処理方法はもとよりの事、時計から秒信号を発射する方法についても従前に比し著しい進歩を図った。 水晶時計自体の構成に於いては、先づ振動子を水素(尾斯?)中で動作せしめてその対数減衰率を著しく小さくすると共に、 外気の相対温度変化に基づく周波数の変化を防ぎ、水晶発振器の構成要素の電気定数が温度変化に伴ひ変化する点を考慮して発振周波数の安定化を図る回路を工夫すると共に、 発振器の直流電源電圧の変化に伴う周波数変化をも防止する方法を講じた。 これら幾多の改良を総合した結果を検討する為 KQ5 と名付ける水晶時計を試作した。 今日迄の結果によれば前述の様に一応所期の目的は達し得て居るが、更に日と共に高まりつつある一層変動の小さいものへの要望にこたへる為には更に今后の研究が必要である。 詳細な研究結果は各研究分担者の報告を「水晶時計の改良に関する研究」第3巻に蒐録した。

R1板の周波数温度特性

昭和28年度 第3巻より

古賀 逸策

古賀水晶時計第一号

古賀 逸策(こが いっさく、1899年12月5日 - 1982年9月2日)は、電気通信工学者。佐賀県三養基郡田代村(現・鳥栖市)生まれ。東京大学卒業。東京工業大学、東京大学の教授を歴任し、のちに東大名誉教授。 水晶を使った研究が多く、無線通信用の水晶振動子や温度の変化を受けない水晶振動子を開発。1963年文化勲章受章。1971年日本学士院会員。主著は『圧電気と高周波』。 1982年9月2日死去、82歳没。

右写真は、古賀水晶時計第一号(KQ1)。1937年のパリ万国博覧会へ出品された。

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