1. 通俗時計学 大正11年
通俗時計学
表紙 縦18.5cm×横12.5cm |
時計に関する知識の普及を目的として米国ウオルサムが刊行した冊子で、時と時計、
懐中時計の修理に関する知識がコンパクトにまとめられている。
初版は大正8年6月に五千部発行、第二版は大正9年6月に二万部発行、そしてこの第三版が大正11年2月に発行された。
第三版の後も戦前を通じて版を重ねており、以下の写真のモスグリーンが昭和5年3月第五版、赤が昭和12年1月第六版で
第六版が最後の版と思われる。
はしがきより抜粋
本書はウオルサム時計会社が日本に於ける時計商並に時計師諸君が最も優良な時計の機械を完全に調整したり、修繕をしたりなさる のに最も必要な実際上の知識や実験を列挙して御参考に備へやうと企てたものであります。 従って時計のことに専門の知識を持って居られる諸君は勿論、販売する人や修繕を専門とする人々でも、本書について 研究されたならば得るところは決して少なくないと信じます。
本社の造り出す時計が、其の正確堅牢な点に於て、世界の総ての時計に優れて居ることを一般に認められ、信頼されるやうになった 今日迄の本社の苦心は実に容易なものではありません。其の製造にあたっては常に科学の原理に基づいて、最も綿密な而うして又 最も正確な方法を以てして居ると言ふことは、此の一小冊子を一読されただけでも其の一端を了解されるでありませう。
而も日本人は何事にまれ、一見して直ちに其の内容を見破り、一々細かな点迄説明しなくても良く精密に其源を想像し得る特別な 能力を持って居られるから、本書ではただウオルサム時計機械の特殊な要点のみを簡単に記して置くに止めましたが、若し尚不審な 箇所がありましたら、ウオルサム時計機械の部分部分を取り外して、少しく注意して見られるならば、其の独特な要点はひとりでに お解りになります。
世の中の人が時計を「解らぬもの」として居た時代はもうとうに過ぎ去ってしまひました。従って当社では少しも秘密などと云ふ やうな項目はありません。 寧ろ本社が特別な苦心に依って得た実験の結果でも、成るべく多くの人達が能く会得して、少しでも其利益を分たんことを切に望んで 居るのであります。是れ即ち本社が特に斯様な冊子までも刊行して、日本の時計師諸君に配布する所以で、只面白半分に読んで頂かう とするのではなく、真に実際の仕事の上に御参考に供へやうと云ふのが本社の目的であります。
米国ウオルサム時計会社 時計製造部長 オロフ・オールソン識す
一千九百十九年一月
時計所有者の心得
時計は人類に取って最も有益なる発明品の一つであることは誰も否むことの出来ない事実であります。 併しそれ程有益なものでも若し正確に時間を報じなかったならば何の役にも立ちません。 由来時計器械の原理は極めて微妙なもので天然自然の法則と而して機械的動作とがしっくりと融和した處に初めて完全な働きを 現すのでありますから、この点に善く留意して製品の選択は勿論其の取扱には充分注意を払うことが必要であります。
そもそも時計器械の要部に宝石を用ふる訳は、軸の回転其の他喰合等から起こる摩擦を成るべく減じて機械の運転を円滑ならしむる と同時に摩擦を防止するに在るのでありますから、従って其の宝石の数が多ければ多い程善いのであります。 然し宝石と云ふても種類に沢山ありまして一般に用ひらるるものにはルビー、サファイヤー、ガーネット、硝子(粗悪品)等で 最良なものにはダイヤモンドも用ひられて居ります。 而してそれ等は硬度の高いもの程良い事は勿論であります。 尚温度の変化や置方の如何に依って生ずる時間の変動に対しても夫々の整調を完全に施してあってこそ初めて時計としての目的が 達せられるのでありますが、以上述べたやうな諸点に缺くる所のある品を所持して尚且時間の正確を期するが如きは寧ろ無理な 望みと云わねばなりません。 余り薄手の側や、(但し此場合ウオルサム・コロニアルA等の如く特に保證されて居るものは此の限りにあらず)又は機械に正しく 合はない側を用ひた時計に依って完全な機械の運動を期するも亦到底不可能のことであります。 綿密に注意して造られた時計側は微妙な塵埃は勿論、総て外部より来る障害を防御します。
善良な時計を求めんと欲さば須らく信用ある確かな時計店から買ひ求めなさい。中には好んで古時計を求める人もありますが、 之は最も嫌うべきことで不完全なものを得て失敗に終わることが多いものでありますから、素人としては成るべく斯かる危険は 避くるを可しとします。
次に取扱に就いてはぜんまいは必ず一定した時間に捲き、且つ夜間よりは朝之を捲くほうがよろしい、それは日中携帯せらるる 時に當り、発条よりの全動力が充分に伝播さるるからであります。
現今製出さるるウォルサム時計は、一回之を捲けば優に三十余時間を保ちますが、二十四時間毎に一回捲いて置くのが最善な 方法であります。
鎖は単に時計を安全に携帯する為めばかりでなく、ポケットの中に入れた時、時計を絶えず直立した位置に保つことが出来ます ので、従って一定不変なる速度のもとに機械が正しく運転し得るのであります。
若し時計に故障が出来た時は、経験のない自分の手で直さうなどと試みることなく、充分に信頼の出来る時計師に一任するのが 最善の策であります。之は單り懐中時計のみならず総て掛時計や時辰儀でも矢張りさうであります。 又時計の緩急針を動かす事のみに依って正しく時間を調整し得るものではありません。
自己の所持する時計が誤りなく時を報じつつあるや否やを見るには正確なる標準によって比較することが必要であります。
最後に注意すべきことは時計器械に注ぐ油の有効期間は大凡そ一ヶ年乃至一ヶ年半を限度としてありますから、少なくとも 一年に一回は熟練せる時計師によって機械の掃除をなすと同時に注油せしむることを怠ってはなりません。 斯くしてこそ初めて時計の生命は完全に保たれるのであります。
通俗時計学 オロフ・オールソン著、大正8年
ウオルサム時計読本
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「ウオルサム時計読本」は、「通俗時計学」のバージョンアップ版にあたる。 はしがきには「この時計読本は今秋(昭和3年)挙行せらるる御大典を奉祝するための記念出版であります」とある。 内容は時と時制、時報、暦、時計の歴史から時計の構造、修理に至るまで図版を多用して分かりやすく纏められ、 190頁に渡るハードカバーの立派な啓発本である。
縦19.5cm×横13cm
米国ウオルサム時計会社出版部
昭和3年11月10日発行、昭和4年4月1日改訂5版発行
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